7月1日といえばカナダの建国記念日で、カナダデーとして紅白のメイプルリーフや花火と共に祝われる日である。しかし、今年はカナダデーを祝うべきかという議論がヒートアップしている。一ヶ月前にブリティッシュコロンビア州の寄宿学校跡地から215人の子供の遺骨が発見されたと書いたばかりだが、その後、サスカチュワン州の宿舎学校跡地付近で751の墓標のない墓が発見され、ブリティッシュコロンビア州の別の宿舎学校跡地で182人の遺骨が見つかったと発表された。カナダの他の宿舎学校跡地でも捜査が継続しているため、この数字はまだまだ増えていくだろう。カナダデーに対する批判的な声は昔からあったが、今年はカナダの先住民問題に大きなスポットライトが当たっているため、建国記念日を祝うことに違和感を感じている人も多いようだ。実際に、カナダデーの中止を決断した都市も幾つかある。

カナダデーは他の建国記念日と少し違っていて、独特の雰囲気がある。カナダという国は移民の国であって、多文化共生主義を誇りとしている。カナダ人口の5人に1人は外国生まれで、カナダで生まれ育った人でも両親や祖父母が移民だという人も珍しくない。移民としてカナダに受け入れられて、そこで家庭やコミュニティを形成したからこそ、彼らにとってカナダデーは自分の新たかな“故郷”を祝う日でもある。よくある愛国心とは少し異なるかもしれないが、国家と移民としての経験が個人のアイデンティティと深く結び付いているのだ。少なくとも、それが私のイメージである。だからか、カナダデーという日に強い愛着を持つ人もいて、彼らはカナダデーを中止する動きに戸惑っている。先住民問題についてあまり知らないまま、こうして理想の中にあるカナダと矛盾する“新しい”現実を突き付けられて、様々な感情と対峙している人も多いのだろう。カナダと先住民の複雑な関係は移民の自分には関係ないと思っている人もいる。
トロントではカナダデーを含めたイベントが全て新型コロナウイルス対策で元々中止されていたため、代わりにオレンジ色のシャツを着た人たちのマーチが開催された。「Every Child Matters(どの子供も大事だ)」と題されたマーチは、2013年より始まったオレンジ色シャツの日(公式サイト)のスローガンから来ている。宿舎学校で苦しめられて、犠牲となった子供たちを追悼し、将来的な和解を目指すこのキャンペーンは、ここ数年でカナダ全国に広がった。今日のマーチには数千人以上が集まった。直接参加しなくても、私の周りではカナダデーの代わりにソーシャルメディアでオレンジ色シャツのキャンペーンを投稿している人も増えた。カナダデーの中止は賛否が分かれているかもしれないが、今年のカナダデーに対する姿勢には大きな変化が起きているように感じる。

もちろん、カナダという国家に対して批判的な姿勢を受け入れられない人もいる。愛国心をこじらせいる人は、少しでもカナダのネガティブな部分を指摘されると「そんなにカナダが嫌いなら帰ればいい」と返されてしまう。数年前、メジャーな全国新聞のプライド特集でインタビューされた際に「カナダは確かにゲイフレンドリーかもしれないが、人種差別も経験した」と発言したところ、全国から「帰れ」という怒りの声が届いた(それ以上に共感の声も届いた)。図星を突かれたために、それを認めたくないのかもしれない。北アメリカの植民地化も、先住民の大量虐殺も、宿舎学校の同化政策も、現在進行形で先住民が経験している暴力や差別も、すべてカナダという国家の一部である。その都合の悪い現実から目を背けて、理想の中のカナダで暮らしたい人もいるだろうが、それでは前には進めない。

7月1日には、オレンジ色と紅白のメイプルリーフがどう共存していくのかという議論がしばらく続くだろう。これからは毎年、カナダデーのカウンターイベントという位置付けでオレンジ色シャツのマーチが開催されていくと予想される。ちなみに、今日はオレンジ色のシャツを着て出かけようと思っていたが、クローゼットを漁ってみるとオレンジ色のシャツを一枚も持っていないことに気付いた。そういえば、あまり赤やオレンジ系の色は似合わないので避けていたみたい。次のマーチに備えて「Every Child Matters」のシャツをオーダーしよう。
Photos by Brian Chang