キャシーの日々ハッテンは、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。
キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.55 「性」は股間だけの話ではなくてよ
ネズミは英語でマウスとラットに分けられて、片方がミッキーマウスのようなキャラクターとなって可愛がられ、もう片方はモンスターのように忌み嫌われている。言葉とはレンズのようなもので、知れば知るほど豊かな視点を与えてくれる。もちろん、ネズミ以外にも同じようなケースがたくさんある。例えば、日本語では「性」がよく一言で括られるが、英語では「性」がたくさんある。
一番よく目にする「性」といえばセックスで、肉体的に男性か女性かという意味である。パスポートに載っている性別がこれで、ヒヨコの股間を見て雄雌分ける達人もこれを確認している。もう一つの「性」といえばジェンダーで、こちらは文化的な性別のことを指している。「女性はスカートを履いて、男性はズボンを履くべき」とか、社会が作り出した“あり方”がジェンダーである。草食男子や肉食女子が流行ったりするように、時代や場所によってジェンダーの形は大きく変わる。そして、ゲイやレズビアンの説明によく使われるセクシュアリティも「性」の一つだ。日本語では性的指向とも呼ばれているが、単語自体を知らない人も多いし、性的嗜好と間違える人も多い。こっちは趣味でゲイやってるわけじゃなくてよ。セクシュアリティは恋愛対象や性愛対象の話で、近所のカフェで働くイケメン目当てにラテを飲みにいく女の子も、キャシーも、いわば同じセクシュアリティであると言えちゃう。
ここまで読んで頭がこんがらがっている人もいると思うが、実は複雑そうでいて、とてもシンプルな話だったりする。難しそうに感じるのは、もしかしたら同じレンズから物事を見ることに慣れすぎてしまっているからなのかもしれない。