2020年も終わろうとしている今、自分はポスト・パンデミックなライフスタイルにすっかり慣れてしまっている。それが言えるのも、恵まれた環境でそこまで不自由ない生活ができているからだと理解している。数年前の自分ならパンデミックで仕事を失っていたからもしれない。永住権を取得する前の自分なら健康保険の心配をしていただろう。留学生だった頃だったらどうなっていたかなんて正直想像もできない。新型コロナウイルスのインパクトが広まると共に、「We’re all in this together」というフレーズを耳にするようになった。パンデミックの文脈で訳すれば、「私たちはみんな同じように苦しんでいるよ」や「私たちは共にこれを乗り越えるよ」という意味になる。しかし、明らかな格差を経験している人たちからすれば、このフレーズが綺麗事に聞こえるのも事実である。アーティスト、Joanna Sevillaによるこのイラストは、そんな全く異なるパンデミックの現実を的確に捉えている。裕福な家庭やリモートワークができる職種は自宅で安全に過ごせる一方で、低所得層やサービス業でリモートワークが許されない人たちは感染のリスクに晒される。みんながみんな、同じように苦しんでいるわけではない。
ウイルスは無差別に人間に感染するかもしれないが、社会に存在する差別や格差によってそのリスクが左右される。HIV予防啓発の仕事をしていた頃、健康の社会的決定要因(所得、人種、性別など)がいかに重要か教わったが、新型コロナウイルスでさらにそれを痛感している。フードバンクでの長い行列や公園に並ぶホームレスのテントは、このパンデミックのインパクトを物語っている。Toronto Foundationのリポートによれば、年収150,000カナダドル以上の人と比べると、年収30,000カナダドル以下の人は5.3倍も新型コロナウイルスの影響を受けやすい。さらに、トロントの有色人種の人口が高いエリアでは10倍近く感染ケースが多く、トロント市が公開したデータでは所得や同居人の人数の関連性にも触れている。パンデミックによる失業率を見れば、男性よりも女性の方が影響を受けていて、女性にとっては特に家庭内での家事や育児の分担や性暴力なども大きな問題となった。もちろん、こうした社会問題は今年始まったわけではない。新型コロナウイルスによって、無視されがちな問題が浮き彫りになったのだ。
ワクチンの登場で、いち早くパンデミック前の日常に戻りたいと願う気持ちはよくわかる。2021年は状況が改善して、日本に帰国できるようになればと自分も願っている。しかし、たとえワクチンでウイルスに勝てたとしても、根強い社会問題が解決したことにはならない。それを忘れてはいけない。このパンデミックはピンチであって、チャンスでもある。これをきっかけに、政府、企業、コミュニティや個人が社会と環境の問題により敏感になって、積極的に問題解決に取り組むようになってほしい。パンデミックを乗り越えて、取り残された人たちをなかったことにする日常にまた戻るのなら、私たちは2020年から何も学ばなかったことになる。