ダイバーシティという職業に少し疲れた、という話

実は、昨年からダイバーシティの仕事から距離を取っている。とても好きな仕事だった一方で、この距離感に少しホッとしている自分がいる。いつかブログでも書こうと思っていたが、なかなか言葉で感じていたことをまとめるのは難しくて、ずっと先延ばしにしていた。正直、今でも説明できる自信はないが、とりあえず書いてみることにする。

そもそも、ダイバーシティ関係(Diversity、Equity、Inclusion、合わせてEDIなど、様々な名前がある)の仕事が何なのかわからない人もいるだろう。トロントでの私の経験からダイバーシティの仕事を要約すると、教育、ポリシー、サポートなどを通して、誰もが(特に差別を受けているコミュニティが)受け入れられる環境を築く仕事である。例えば、LGBTフレンドリーな職場を心掛けるにはどうすればいいか、とコミュニティセンターの職員たちにトレーニングを提供するときもあれば、マーケティングのチームに「キャンペーンのモデルに白人しかいないから、もっと多様性がないとダメよ」とアドバイスするときもある。マイノリティのユースが集まって話ができるセーフスペースを運営することもあれば、トランスジェンダーの人権が含まれていない古いポリシーをアップデートすることもある。コンサルタントとして様々な団体や企業と仕事をする人もいれば、特定の組織にダイバーシティの専門家として雇われる人もいる。やり甲斐はあるものの、複雑な仕事でもある。

自分がダイバーシティ関係の仕事に辿り着いたのは自然な流れだった。子供の頃から社会問題に関心を持っていたし、このブログを始めた頃はLGBT問題に燃えていて、トロントでの留学で学んだ経験をわかりやすく文章にまとめるようになった。ボランティアとして経験を積んで、コミュニティ内でHIV予防啓発の仕事をするようになってからは、HIVに関する知識と共に、人種差別やホモフォビアなどの社会問題がいかに公衆衛生に影響を与えるか、ワークショップなどを通して教えるようになった。だから、偏見や差別の見分け方、全員平等は必ずしもフェアではない話や、差別的な言動を防ぐ方法など、こうしたトピックでトークやトレーニングを依頼されることも増えて、いつのまにかダイバーシティが本業になっていた。川の流れに身を任せたわけよ。

この仕事をやればやるほど、人種差別や性差別などの社会問題がいかに複雑で、簡単には説明できないということを学んだ。しかし、それなのに白黒ハッキリした回答やシンプルな解決策を求められることが多い。頑張って噛み砕いて説明したところで、自分の見解が正しいのかさえわからなくなってしまう。そして、ダイバーシティの専門家として仕事している以上、少しのミスでも致命的である。保守派や差別肯定派の人たちを相手にする時は少しでも隙を見せると攻撃されるし、逆にダイバーシティに精通している人たちを相手にすれば知識不足や間違った言葉遣いで攻撃されることもある。このピリビリした空気は本当に辛いもので、数年前に担当したワークショップでの自分のやらかし(この話は、いつか克服したら書くわ)を、今でも思い出して落ち込む日があるくらいである。

それだけでも難しいのに、ダイバーシティの仕事は常に周りの顔色を伺う必要があって、絶妙なバランスを保つ必要がある。例えば、今年は世界的にBlack Lives Matter(BLM)が注目されて、様々な芸能人や企業がBLMへの支援を公表した。数年前までは、トロントでBLMについてイベントをやろうと提案すれば、一般企業や教育機関では却下されることが多かった。2016年に、トロントではBLMがデモ活動としてプライドパレードを止めたことで、BLMを敵視する人も多く、タブーな扱いをされていた。一転、今年は逆にBLMを支援しないといけないみたいなプレッシャーが広がって、急にダイバーシティの専門家やBLMについて話せるスピーカーを雇う場所が一気に増えた。こうした矛盾は珍しくない。こうやって目紛しく変わる空気を常に読んで、組織に喜んでもらえるような仕事を優先しないと、自分の収入源がなくなってしまう。そうやってこの仕事の本質を見失うこともあって、そんな自分に失望することもあった。

何よりも苦しいのは、限られたリソースで精一杯やったところで、四方八方から批判されて終わる時である。そんな日には自信を完全に失って、燃え尽きてしまう。差別という複雑で、根強く、歴史の長い問題を、コンサルタントとしてワークショップを一回やったところで、何かが解決するわけはない。しかし、差別によって害される人もいれば、それで得する人もいる以上、様々な考え方や期待がある。それでお金を貰って仕事をしていると、何を優先するか非常に難しくなってくる。組織内での決断力が限られている分、自分ではどうしようもないことも多々ある。それでは、どうやって前に進めばいいのだろう。

「ダイバーシティという職種に拘らなくてもいいんじゃない?」

以前ダイバーシティ関係の仕事をしていた友人からそう言われて、昨年キャリアをシフト(話が長くなってしまったので、これについてはまた別の機会に書くわ)することを決めた。ダイバーシティという仕事は、全ての分野に関わる仕事である。だから、見方を変えれば、どんな仕事をしていようとダイバーシティに役立てるというわけでもある。このままでは立ち直れなくなってしまうと怖かった時期に、そんな言葉と出会えたことにとても感謝している。

「差別という問題を今すぐ解決しようという考え方は思い上がり」だと職場の先輩が言っていた。この“仕事”は何世代にも渡って、徐々に世界を癒していく地道な作業である。そうやって長い目で見て、維持できる活動でないと続かないのかもしれない。

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