キャシーの日々ハッテンは、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。
キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.122 虹色のソーセージは世界を変えるのか
プライドの最中、スーパーで買い物をしていたら虹色のソーセージが目に入った。そのプライド限定のソーセージは、レインボーフラッグを模してそれぞれ違う色に染められていた。特に青と紫のソーセージはエキセントリックで、全く食欲をそそられなかった。値札から察して、天然食材ではなくフードカラーの仕業だろう。そんな綺麗にパッケージされたカラフルなソーセージと睨めっこしながら、プライドの意味を考えさせられた。社会からの差別や圧力に立ち向かうために生まれたプライドはいつのまにか企業の広告塔となった。プライドに合わせてゲイ向けのコマーシャルが発信されて、みんなが手にしているレインボーフラッグにはアパレルブランドのロゴが付いて、筋肉モリモリなモデルたちが新商品を宣伝している。そこにある歴史や精神が反映されているかどうかに関わらず、プライドはパッケージ化されて消費されるようになった。この不味そうな虹色のソーセージもその産物である。
トロントプライドは大人気で、その規模の大きさはトップレベルだ。スポンサーの存在がなければ、ここまで大きくなったイベントを維持することはできない。プライドを運営するのは安くはない。マーチやパレードで道路を封鎖するのも、入場無料のパーティもお金がかかる。しかし、そうやってスポンサーに頼れば頼るほど、プライドを切り売りすることになってしまう。スポンサーの機嫌を損なうのを恐れて、政治的なメッセージの存在感はどんどん薄れてくる。普段なら「どうせそんなものさ」と事勿れ主義になっていたかもしれないが、フロリダのゲイクラブ銃撃の直後だと見方も変わる。自分のコミュニティが差別に苦しんでいる横で、プライドという大切なイベントが金儲けのために使われている。スポンサーに支えられているおかげで、プライドのメッセージがより多くの人に届くからといって、気分は複雑である。この虹色のソーセージはプライドをただの広告道具として考えているのか、それとも魔法のように世界を変えてくれるのか。その答えは分からないが、ただ一つ確かなのは自分がそのソーセージを口にすることはないということだ。