セックス・アンド・ザ・キャシーは、LGBTのためのコミュニティサイト『2CHOPO』(にちょぽ)に2014年から2017年まで連載されていたコラムです。

セックス・アンド・ザ・キャシー(コラム連載アーカイブ)
第51回、恋人がいても自分だけの時間を失いたくない
「彼氏はどこ?」
また同じ質問だ。パーティに一人で参加すると何回もこの質問を聞かれるので、同じ答えを何度も繰り返すことになる。相手に悪気がないのはわかっているが、いい加減にワインが不味くなる。質問だけでは飽き足らず、恋人を家に置いてくるのは悪者だという議論を持ち出す人もいる。パーティに連続で彼氏抜きで登場していたら破局したのかと思われたこともあった。カップルだから必ずペアで行動しなければいけないというルールに同意した記憶はない。彼氏だって、家でまったりやりたいことをやっているはずだ。
二人で別々に海外旅行をした時なんて周りから真剣に心配された。彼氏を一人で海外に行かせて浮気を心配しないのか。恋人なら海外旅行は一緒に行くべきだとか。彼氏を置いて海外に行くのは非常識だとか。聞いてもいないのに様々な意見をもらった。これにはさすがにビックリした。他人にここまで恋愛の中身について意見されるなんて初めてだった。何より、彼氏のいない時間を大満喫していたところだったのに水を差された。
昔、彼氏がいないと絶対に外出しない友達がいた。その友達は彼氏と一心同体だった。何をするのも一緒だった。友達も、着る服も、使っているスマホも全部一緒だった。彼らが話すときに使う主語は「私」から「私たち」に変わった。そんな恋愛に同意はしなかったが、否定もしなかった。友達が幸せなら自分が口を出す必要はない。ところが、私たちの友情は長続きしなかった。
その友達と遊ぶときは必ず彼氏が同行した。その彼氏の都合が悪いと友達まで予定をキャンセルした。自分からすれば友達の方と気兼ねなく時間を過ごしたかったが、常に彼氏の顔色を伺う必要があった。それではパーソナルな話もできないし、ラブラブな二人の会話に入り込める隙もない。ここまで一心同体を目指す人は極端だが、彼らを観察しながら自分の価値観とここまで違うのかと驚いたのを覚えている。
自分だけの時間は彼氏と過ごす時間と同じくらい大事だ。いや、前者の方がもっと大事かもしれない。毎日ずっと恋人と一緒にいなきゃいけない恋愛なんて地獄絵図にしか見えない。読書したり、音楽を聴いたり、気の合う友達と食事したり、彼氏抜きで小旅行に行ったり、そういう時間があるから恋愛もより豊かになる。オナニーだって大事な息抜きだ。
距離が近いからこそ摩擦も増える。恋愛をしていれば毒物も溜まる。だから、意図的に彼氏と別々に過ごせる時間を作るようにしている。同棲して同じ空間にいたとしても、それぞれ別の作業に夢中になる。友達の輪はできるだけ混ぜないようにする。お互いの知らない場所で溜まった毒物を吐き出せる機会があるから、また冷静になって目の前の恋愛に向き合える。流行りのデトックスである。
別にここでどちらが正しいかという話がしたいわけではない。人が違えば恋愛のスタイルは変わる。組み合わせが違えば恋愛の形も変わる。その時々によって、自分に一番しっくり来るものを選べばいい。目の前を見ればオプションはいつも山ほどある。恋愛のルールを決めるのはその恋愛をする本人たちだ。そして、「彼氏はどこ?」なんて退屈な質問はしないで、パーティで思う存分にワインを飲ませて欲しい。