キャシーの日々ハッテンは、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。
キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.104 ゲイ差別発言を聞いても、黙ってる?
あたしがゲイだってことは、地球に暮らしている人ならみんなもう知ってるだろう。それはさすがに言い過ぎだが、たまにそうであってほしいと願う。見た目や仕草であたしがゲイかもしれないと気付いて、失礼にならないように気にかける人もいる一方で、とても鈍感な人もいる。この前、仕事関係で知り合った人たちと世間話をしていたら、不思議と誰にもゲイだと気付かれなかった。周りにゲイがいない環境にいるのか、彼らはゲイなんて存在しないかのように話をする。そこでカミングアウトするのも億劫で、空気と化して早く会話が終わればいいと祈った。隣に立っていた友人はあたしがゲイだと知っているからか、その状況に少し緊張していた。そして、予想通りにその会話の矛先は自分へと向けられた。
「彼女いないの?まさかゲイじゃないだろうね。ゲイがいっぱいいるからダウンタウンには行かないんだ。」それを聞いて、もう内心では火山が噴火していた。それでもどうでもいい人たちに労力を費やすのももったいなくて、死んだような笑顔で誤魔化した。その一部始終を見ていた友人はとても気まずそうだった。ゲイじゃない彼にとっては痛くない言葉なのかもしれないが、ゲイの友達が横でどんな気持ちでいるのかを想像すれば居心地も悪くなるだろう。しかし、彼は何も言わなかった。そのまま会話は何事もなかったかのように終わった。残ったのは怒りと空虚感と、ちょっとした痛みだった。面と向かって悪口を言われるよりも、遥かに後味が悪かった。
「何か言えばよかったかな?」二人きりになって、その友人は申し訳なさそうに聞いてきた。別に彼が悪いわけじゃない。そこで正義の味方になる義務なんて誰にもない。むしろ、多くの人は空気を読んで何も言わないだろう。ゲイである自分でさえ沈黙を守っていたのだから、そうではない人にとってはなおさら関係ないのかもしれない。その絶妙な隙を狙って、差別や偏見はまた増殖していく。もしも、そうした発言に対して「それは偏見だし、失礼だと思うよ」と言ってくれる人がもっと増えれば、社会はきっととてつもないスピードで変わっていく。そうだとわかっていても難しいことには変わらない。差別発言を聞いたら、どうする?