キャシーのトロント不思議ハッテンは、ゲイ総合情報誌『Badi』で2012年から2016年まで連載されていたコラムです。
キャシーのトロント不思議ハッテン(コラム連載アーカイブ)
第39回、ハードゲイたちは力強く盛っている
ほのぼのしたゲイファミリーやポップなゲイティーンたちが賑わうトロントのゲイタウンで、ハードコアなゲイたちの居場所はあるのだろうか。そんなことを考えながら、チャーチストリートを通り過ぎゆく人々を眺めならお茶をすする。多様なゲイコミュニティをカテゴリーするのはあれだが、ヴィンテージポルノに出てくるようなマッチョで性欲に満ちたハードゲイを最近あまり見ない。ハッテンに適したバックルームのあるゲイクラブが時代遅れになって、ハードゲイたちも過去のものになったのかもしれない。
「そんなことはないよ」という友達に引っ張られて、ブラックイーグルという真っ黒なゲイクラブにやってきた。鉄格子と黒い窓の向こうで何が起きているのか、外からはさっぱりわからない。薄暗いダンスフロアに足を踏み入れると、「いいものを見せてあげる」と友達に手を引かれて階段を上がった。ダンスフロアよりも暗いコーナーで、謎の集団がもぞもぞしている。何をしているかは簡単に想像できる。まだ暗闇に慣れない目をこすってみると、目の前でアナルセックスが繰り広げられていた。まるでヴィンテージポルノだ。こんな場所があったなんて、感動して亀頭から少し涙がこぼれた。あまりの熱気に圧倒されて、屋上のテラスに出てみる。レザーに身を包んだ男たちが情熱的にキスしている。空いている席は彼らの横しかなく、そこに座って絡まる舌を眺めながらビールをすすった。トロントのゲイタウンに入り浸って、今までここに来なかった自分を呪った。
「彼らみたいなのがゲイのイメージをダメにするんだ!」と批判的な人は多く、ハッテン文化の低迷を喜ぶ人もいる。しかし、メディアの中から出てきたような健全でフツーなゲイばかりになったゲイタウンは淡白で刺激がない。スマホのアプリを見れば、みんな血眼になって盛ろうと必死だ。ハッテン場は減ったかもしれないが、今ではジムのシャワールームがその役割を果たしている。ハードゲイが減ったというより、むしろむっつりなゲイが増えただけなのかもしれない。性的指向をカミングアウトする人は昔よりずっと多いのに、自分の性欲や性癖を誇りに思えないなんて皮肉だ。