セックス・アンド・ザ・キャシーは、LGBTのためのコミュニティサイト『2CHOPO』(にちょぽ)に2014年から2017年まで連載されていたコラムです。

セックス・アンド・ザ・キャシー(コラム連載アーカイブ)
第25回、お酒の力を借りないとセックスができない人
「初めての人とセックスをすると緊張するから、お酒でも飲んで気持ちをほぐそう」
そう言って、彼はグラスたっぷりに注がれた赤ワインを飲み干して、おかわりをした。まだ前戯も始まっていないのに、さっき開けたばかりのワインボトルはあっという間に空になった。丁寧にワインを断った自分はすっかり取り残されていた。彼の目はうつろになり、顔も真っ赤。これではもうセックスどころではない。
セックスの前に乾杯して、グラス一杯で終わればロマンチックかもしれない。ワインやシャンパンならシックでオトナな感じを演出できるし、ビールならカジュアルでリラックスした雰囲気になる。いっそ熱燗でカラダを火照らせるのも色っぽい。しかし、お酒が入りすぎて酔ってしまっては、セクシーなムードも台無しだ。
たしかに、セックスは緊張する。お酒の力を借りたくなる気持ちもよくわかる。もう場数を踏んで経験豊富なはずの自分も、セックス直前となると今でも心臓がバクバクする。嫌われたらどうしよう。変な匂いがしたらどうしよう。フェラチオのときに思いっきり噛んじゃったらどうしよう。おもちゃが中から出てこなくて救急車を呼ぶことになったらどうしよう。そんなどうしようもないことばかりが頭をよぎる。
ワイン一本をひとりで空にした彼も、緊張感を和らげるために飲んでいた。酔ったままセックスをすれば、様々なプレッシャーや不安から少し逃げられるからだろう。同じように、ドラッグでハイになっていないとセックスを楽しめない人もいる。お酒やドラッグに頼らなくても、夜中のあの変なテンションじゃないとセックスしたがらない人だって多いはずだ。性欲にセックスの運転を任せて、自分の意識を薄めたほうが気が楽なのだろう。
昔、週末はクラブで泥酔するまで酔わないと気が済まない友人がいた。彼は知らない人のベッドの上で目覚めることが多いという。それまでの記憶はない。どんなセックスをしたのかもわからないし、コンドームを使ったかどうかも覚えてない。二日酔いと後悔にまみれた彼とお茶をすると、彼はこう打ち明けてくれた。
「飲まないと、誰にもアプローチできないんだ。このままじゃダメだってわかってるんだけど、こうでもしないとクラブにとけこめないし、誰にも相手にされない。罪悪感は募るばかりで、自信は減っていくばかり、だからお酒に頼っちゃう。」
話を聞く限り、アルコールが彼の抱える問題のバンドエイドになっている状態だ。しかし、それらを一時的に解決するために、彼はとてもリスクの高い状況に身を置いている。これが続けば、やがて問題はもっと大きくなってしまうだろう。もちろん、みんながみんな彼のように自分の問題をアルコールやドラッグでカバーするわけではない。
単純にドラッグでハイになった状態のセックスを楽しむ人もいる。そうしたセックスは英語でパーティ&プレイと呼ばれる。それを行う際は、計画的にリスクを計算して、できるだけ安全であることを心がけるべきだ。実際、多くの人は責任を持ってパーティ&プレイを楽しむ。無計画に泥酔したり、ハイになって、そのまま見知らぬ人とセックスをするのはあまりに危険だからだ。
もしも、セックスを考えると緊張してしまうようなら、もっと簡単な解決策がある。不安感だったり、罪悪感だったり、そうしたネガティブな感情を優しく見守ってみよう。そこから逃げる必要はないし、そうした感情を無くそうとする必要もない。そう感じている自分を責める理由だってない。スーっと深呼吸をして、今そこで緊張している自分を受け入れてみよう。心が落ち着いたら、目の前にあるセックスを精一杯楽しめばいい。