キャシーの日々ハッテンは、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。
キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.90 小さな偏見が大きな問題になる前に
黒猫に前を横切られると縁起が悪いと信じている人は少なくない。とある友人は黒猫を見つけては、目の前を横切られる前にわざわざ回り道をするという。「もう2015年だよ?」と笑いながら突っ込むと、「誰にも迷惑かけてないんだから、何を信じたっていいでしょう!」とムキになって反論される。もちろん、何を信じようが他人の自由だが、それが迷惑にならないという部分には賛成できない。
昨年末、トロントのアニマルシェルターはブラックフライデーに合わせて黒猫無料キャンペーンを打ち出した。犬や他の色の猫と比べると、黒猫の里親になりたがる人は遥かに少ない。不吉だからと嫌がる人が多いからだ。そうやって処分されてしまう黒猫の多さを見兼ねて、シェルターはこの苦肉の策を思い付いた。さらに、国や地域によっては今でも黒猫が虐待や殺害に遭うケースが圧倒的に多いという。小さな迷信はそれを信じる人の中で現実となって、実際に社会問題となって害を及ぼす。これは黒猫に限った話ではなく、様々な社会問題に通じる。アメリカのミズーリ州ファーガソンで黒人少年が白人警官に射殺された事件や、ヘイトクライムで毎年同性愛者やトランスジェンダーの人たちが命を落とすのも、元をたどれば小さな偏見が原因だったりする。その偏見をぶくぶく肥大化させてしまったのが誰なのかは明白である。私たちだ。
目や耳から入ってくる情報をすべて鵜呑みにしていれば、あっという間に流されてしまう。情報が溢れる今の時代だからこそなおさら少しクリティカルな方がバランスがいい。偏見は偏見、迷信は迷信だと認識するスキルは必要不可欠だ。黒猫は縁起が悪いと信じるのは勝手だが、その迷信を肥大化させた責任は誰が取るのだろうか。罪のない黒猫が責任を取らされて死んでいくのはあまりにかわいそうだ。