男同士、手を繋いで外食できる時代に生きるということ

キャシーのトロント不思議ハッテンは​、ゲイ総合情報誌『Badi』で2012年から2016年まで連載されていたコラムです。

キャシーのトロント不思議ハッテン(コラム連載アーカイブ)
第34回、男同士、手を繋いで外食できる時代に生きるということ

バレンタインデーの週末に、ロマンチックなディナーの前に彼氏とトロントのLGBTQ歴史資料館で開催されたアート展に行った。モダンダンスショーやインストレーションといった現代アートが並ぶ中、建物の奥の薄暗い廊下に警官の格好をした男性が立っていたのが見えた。彼の向こうから声が聞こえたので、そこへ向かおうとにした。その瞬間、突然その男性に止められた。「君、ハッテン場で何をしてたんだ?どの部屋で逮捕されたのか教えろ。」急にそんなことを言われたので戸惑って、彼氏と顔を見合わせた。「これもアート展の一部だよ。」と頭の回転が速い彼は小声で教えてくれた。そのやりとりを見て、警官の姿をした男性は少し微笑んで、またすぐに厳しい顔付きに戻った。少し赤面して、「に、25号室です!」とぎこちなく返した。

次の瞬間、自分は窓のない狭い部屋にいた。さっきのとは違う警官が向かい側に座っていた。左手の甲には「25」という番号が黒いマーカーで書かれていた。擦っても消えなかった。「気持ち悪い奴め。お前の妻や子供がこれを知ったらどう思うんだろうな。」そんなことを急に言われて、抑えきれないほどの怒りを感じて身震いした。トロントのゲイの市民権運動は警察による執拗なハッテン場摘発が発端となった。この作品は、その時の様子を再現しようとしているのだろう。容赦無く取り調べはそのまま続いた。これがただの演技で、今のトロントでこんなことはまずないとは百も承知だが、こみ上げる感情は本物だった。30年以上前、ハッテン場の摘発で逮捕された男性たちは人間としても扱われず、新聞に顔写真が載って、家族や仕事を失った。そんな彼らと同じ状況を疑似体験しながら、あの時代に同じ立場にいたら何を思ってたのだろうかと想像した。たった10分の取り調べを終えて、部屋から出てきた自分は嫌な汗をかいて、顔色が少し悪くなっていた。

バレンタインデーの夜のディナーの席で、彼氏とテーブルの上で手を握る。周りにゲイカップルがちらほら見える。たった30年ほどで、ここまで社会が変わったことに改めて驚きつつ、この光景のために戦った人たちのことを思った。ふと彼氏の手の甲を見ると、「12」という番号が書いてあった。「あんた、なんであたしと同じ部屋で逮捕されなかったのよ!」と怒って、二人とも爆笑した。

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