キャシーのトロント不思議ハッテンは、ゲイ総合情報誌『Badi』で2012年から2016年まで連載されていたコラムです。
キャシーのトロント不思議ハッテン(コラム連載アーカイブ)
第32回、ゲイを襲うアラサークライシス
まだまだ若いと思っていたら、あっという間に29歳になってしまった。三十路に突入するまであと一年。歳を重ねていくのはとても楽しみだが、少しも怖くないといえばそれは嘘になる。最近、三十路を恐れるゲイたちを襲うアラサークライシスなるものの存在を知った。
20代前半はクラブでガンガン踊りまくったゲイたちは、20代中盤になると価値観も変わり始めてクラブを卒業する人も出てくる。週末は友達や彼氏とまったり過ごしたり、他の趣味に時間を費やしたり、キャリアアップのために一生懸命働いたりと、ライフスタイルは多様化する。しかし、20代後半になって三十路が現実的になってくると急に焦りだしてまたクラブに駆け戻る。そして、もう若い頃の輝きは取り戻せないと痛感し落ち込むらしい。例に漏れず、自分もこのアラサークライシスに襲われている。たまにゲイタウンを歩けば、周りの平均年齢の低さが痛いほど身に染みて少し寂しくなる。もっと大胆で過激だった頃の自分を思い出しては、センチメンタルになったりする。少し前までチヤホヤされていたのに、今やすっかりおっさん扱いである。現実は残酷だ。そうやって息苦しくなった時は、頭を冷やして自分の歩いてきた道を振り返るようにしている。もう若返ることはない。過去の自分を羨んだり、出来なかったことを後悔するよりも、ここまで歩いてきた今日の自分を褒めてあげたい。そうすれば、目尻のシワも、プニプニしたお腹も、薄くなった生え際にも少しずつ愛着が湧いてくる。
若さやルックスばかりが注目されるゲイコミュニティの中で、歳を重ねていくのは大変だ。美容やファッションで青春時代をできるだけ延長させるのもいいが、プレッシャーに負けそうな時は自分にとって何が大切かもう一度思い出そう。あと10年生きれば、今度はアラフォークライシスがやってくるらしい。そんなものを跳ね返せるくらいに充実した三十路ゲイライフを送ってやろう。