セックス・アンド・ザ・キャシーは、LGBTのためのコミュニティサイト『2CHOPO』(にちょぽ)に2014年から2017年まで連載されていたコラムです。

セックス・アンド・ザ・キャシー(コラム連載アーカイブ)
第5回、5センチ中に入れば彼氏?恋人同士になる曖昧なタイミング
デートに出かけてキスをすれば自動的に恋人になると考えている人に久しぶりに出会った。正直に白状すると、自分もそう思っていた時期があった。さらに白状すると、今でも恋愛がそれくらい単純ならいいのにとたまに思う。しかし、現実の恋愛はそう甘くはない。どうしてキスしたのに恋愛に発展しないのかと悩むその人を見かねて、あたしは容赦なく彼に冷たい現実を突きつけた。
「キスにそんなに意味を求めちゃダメよ!」
恋人同士になるタイミングが何時なのか昔から大きな謎だった。いったいどんな根拠で赤の他人ふたりは自分たちをカップルと呼ぶようになるのだろう。高校生の頃、周りの男友達に彼女ができると決まってこの質問をした。
「いつから恋人同士になったの?」
答えは様々だった。告白をした瞬間から恋人になったという人もいれば、友達として付き合って3ヶ月してから正式に恋人になった人もいた。彼らの話を聞けば聞くほどさらに混乱した。言うまでもないが、恋愛とセックスほど曖昧で微妙でややこしいものはない。
20代前半になった頃、晴れてゲイデビューしてドライにさくっとセックスを楽しんでいた。恋愛なんて面倒くさそうなものはとりあえず忘れて、いろんな男性を味わっておこうと若さに任せて試食に励んだ。そんなある日のこと、初めて出会った男性とファストフード店で朝ごはんを食べていた。お互いの話にそんなに興味が持てないのか、まったく間が持たないふたり。気がつけば布団の中で裸になって戯れていた。
次の日の朝、突然のメールで目が覚める。「おはよう。今日は寒いから、風邪をひかないように気をつけるんだよ。」目をこすりながら確認すると、昨日ヤった彼だった。なぜこんな馴れ馴れしいメールが届いたのか理解できず、「ありがとう。そっちもね。」とだけ返した。しかし、このメールのやり取りが一週間毎朝続くとさすがにおかしいと気づいた。聞けば、知らないうちに彼は勝手に彼氏に昇進していた。それ以来、セックスをする前とした後に、必ずこう確認をしておくようになった。
「これはただのセックスで、それ以上でも、それ以下でもないからね。」
そもそも、恋人同士になるというのはどういうことなのだろうか。文化や価値観によって答えも違ってくるとも思うが、根本的な部分はお互いに恋愛関係にあると同意している状態である。もちろん、時と場合によってはふたり以上の場合もあるし、恋愛関係の中身も外見も人それぞれである。受動的な日々を送っていればこんな問いかけなんてする必要もないが、実はとても大切なことだ。それでは、どうすれば恋人同士になったとわかるのだろうか。相手に率直に聞けばいい。そんなことを口にするのは少し気恥ずかしいかもしれないが、相手の言動の一つ一つを必要以上に深読みして推測を重ねていくより遥かに簡単に答えが出るはずだ。
今付き合っている彼氏との初デートを今でもよく覚えている。正式にデートのお誘いを受けたあたしは、普段より頑張って着飾って彼とディナーを楽しんだ。その後、家でお茶を飲みながらたわいもない話で盛り上がった。そのまま曖昧にデートを終わらせるのは嫌だったので、タイミングを見計らって真剣な話題に切り替えた。もう散々恋愛に失敗してきたからこそ、自分や他人の気持ちで遊ぶなんてことはしたくない。だから、これでもかってくらい真っ直ぐに質問した。
「ねぇ、どうする?またデートする?」
そんなストレートパンチにビックリした彼は目をまん丸にして頷く。
「じゃ、こうしてデートをしている間、他人とのセックスはあり?なし?」
少し考えてから、首を横に振る彼。
「今夜はセックスする?それとも次のデートまで待つ?」
そのままベッドインする覚悟はできていたが、彼は純情なのか猫を被っているのか次まで待つことに決めた。そんな怒涛の尋問に耐えた彼は、ホッとしたのかグイッとお茶を飲み干した。冷静を装っていた自分だったが、ぎこちない会話がやっと終わって心底安心した。
「5センチ中に入るまで彼氏じゃない!」
とある友人はいつかこんな名言を残した。この下らない名言は小さい物差しで恋愛を測定する無意味さを教えてくれる。キスしたから、セックスしたから、きっと恋人同士になったと頭の中で妄想を繰り広げる暇があるなら聞いてしまえ。好きなら好きと、嫌いなら嫌いと、ハッキリ言えばいい。思いっきり当たって粉々に砕けてしまえ。本当、恋愛はそれくらいハッキリしてた方がいいのに。現実は決して甘くない。