キャシーの日々ハッテンは、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。
キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.59 エイズはゲイの病じゃない
「ゲイじゃないのに、なんでHIV検査したの?」これは数年前、まだカミングアウトしてなかった頃に母から言われた言葉だ。あたしがゲイだと知らなかった母は、どうして20代のストレート男性がHIV検査を受けるのか理解できなかったようだ。彼女にとって、エイズはゲイの間だけの病だった。きっとHIVとエイズの違いも彼女は知らなかったのだろう。
30年以上前にサンフランシスコでHIVというウイルスが発見されてから、世界中で2500万以上の人が命を落とし、約3300万もの人が未だにHIVと共に生きている。この数字が物語るように、HIVは差別をしない。どんな人でもHIVに感染する可能性がある。結婚して幸せな家庭を築いた人だって、50歳を過ぎた人だって、「絶対に感染しない」と断言できるわけではない。それなのに「私には関係ない」と他人事のように考える人が多いのも事実。その無関心な態度のおかげか、HIVの感染者数はここ数年また増えている。アジアに至っては30年前のサンフランシスコ並の感染率だという。日本ももちろん例外ではない。そして悲しいことに、感染者の多くは若者である。この30年でHIVは死に直結するウイルスではなくなった。医療技術の進歩で、HIVに感染していても健康に長生きできるようになった。HIVやセーファーセックスに関する知識も広がり、簡単に予防ができるようになった。しかし、まだ完全に治癒できるわけではない。一度感染してしまえば、決して安くはない治療費と薬の副作用と一生付き合うことになる。何よりも、HIVに対する偏見に満ちた社会はHIV陽性者にとって暮らしやすい場所ではない。今からでも遅くはない。検査を受けて、もっとHIVのことを知ることから始めよう。自分の身は自分で守らなくちゃダメよ。