キャシーのトロント不思議ハッテンは、ゲイ総合情報誌『Badi』で2012年から2016年まで連載されていたコラムです。
キャシーのトロント不思議ハッテン(コラム連載アーカイブ)
第16回、動物園のようなトロントのゲイ業界
新宿二丁目を歩けばあちこちで熊を見かけていたが、トロントに来てからはパンダから、シロクマ、グリズリーまで、見かける熊の種類がどっと増えた。ゲイバーが集うチャーチストリートを通れば、まるで動物園にでも来たような気分になる。もちろん、本物の動物ではなくゲイの話だ。
熊系のゲイといえば、ガチムチ体系で体毛の濃い殿方のことを指すが、実はその歴史は長く、ベアーコミュニティはトロントでも大人気のジャンルだ。毎週金曜日に開催されるベアーナイトは湯気が立つくらい大繁盛で冬の間も暖房いらず。そんなマルチカルチャーなトロントだけに、熊系のゲイといっても細かいカテゴリーが多々ある。アジア系の熊系ゲイはパンダ(panda)、熊見習いの若いゲイは小熊(cub)、毛深いけどガチムチしてない細身のゲイはラッコ(otter)、体毛が白いお爺ちゃん熊はシロクマ(polar bear)など、それぞれ動物にちなんだスラングで呼ばれている。これさえ知っていれば、「あたし、昨日セクシーなシロクマとパコったのよ」「あらやだ、あんた小熊のくせにシロクマばかり狩っちゃって」なんて会話をゲイバーでふと耳にしても安心だ。
北米では、ゲイといえば細身で小綺麗なイメージがあって、テレビで見かけるゲイはそんなステレオタイプにがっちり当てはまっていることが多い。ベアーコミュニティはある意味そこからはみ出たゲイによって形成されたものでもある。しかし、動物園は多種多様な動物がいるからこそ楽しい。数年後には、ウルフナイトとか、ゴリラナイトとか、キリンナイトとか、思いもよらない動物がトロントのゲイタウンの一角を支配しているのかもしれない。