キャシーの日々ハッテンは、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。
キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.46 “嫁姑問題”からはゲイも逃げられない
「母がトロントに遊びに来るから、数日うちに泊まることになったんだけど」と彼氏の口から突然飛び出した言葉に震えが止まらなかった。ドロドロした昼ドラが大好きだった自分はいつの間にか嫁姑バトル恐怖症になっていたようだ。人生の大事なパートナーである彼氏のお母さんだからこそ関係を拗らせたくない。彼女が到着する前に、家の中をピカピカに掃除して、プレゼントも用意して、いつでも料理が出せるように冷蔵庫の中のスペースが無くなるくらい準備万端だった。
パニック気味のあたしを見て友人は様々なアドバイスをくれた。「キャシーならきっとどんなお母さんでも気に入ってくれるよ」というお世辞から、「オトナのおもちゃは全部捨てるか、誰にも見つけられないところに隠しておきなさい」という実践的な助言や、「お姑さんに嫌われたって死にやしないわよ」という冷静な意見まで、聞けば聞くほど緊張感は募って行った。私たちがゲイカップルであるということも、彼氏のお母さんの数日の滞在をより複雑なものにした。「男性同士で幸せになれるのか」「もう孫の顔は見れないのか」そんな風に心配する親も少なくない。もしもそんな質問をされたらどう説得すればいいのか考えなくてはいけない。自分の子供がゲイであると受け入れられない親ならば“嫁姑関係”はもはや絶望的だ。
そんな心配をよそに、蓋を開けてみれば怖いくらい何事もなかった。彼氏のお母さんはあたしの料理を気に入って、レシピ交換もできたし、用意したプレゼントも喜んでもらえた。帰り際にはサンキューカードまでもらってしまった。きっと運が良かったんだろう。これからはドロドロした昼ドラ鑑賞を少し控えることにするわ。