キャシーの日々ハッテンは、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。
キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.42 ゲイも、障がい者も、トロントは多文化共存の街
真冬の肌寒い朝、いつも通りにバスで出勤していた時のこと。少し混んでるバスに車椅子の年配の女性が乗って来た。それに気付いた乗客たちは優先席からパッと立ち上がり、バスの運転手もサッと車椅子が入れるスペースを確保した。その年配の女性も慣れた感じで用意されたスペースに車椅子ごと移動し、バスは再び発進した。その一連の流れがあまりにスムーズで、まさにトロントの日常の一コマのようだった。バスの中には気のせいか豊かな空気が流れていた。
トロントは色鮮やかで、ダウンタウンを歩けば様々な人にすれ違う。白人、黒人、アジア人はもちろん、昨日からカナダに住み始めた人も、先祖代々カナダに住む先住民もこの街で暮らしている。この街にいれば周りが自分と違うことにもすぐに慣れる。よほどのことがない限り自分が他と違うことで浮くこともない。トロントにはまだまだ伸びしろがたっぷりあって、「多文化共生にはほど遠い」と厳しい人もいれば、「それでも地球上で一番多文化共生に近い街だよね」と楽観的な人もいる。いろんな価値観があるからこそ社会が抱える問題も複雑だが、その分より良い街作りに励む人々の努力も絶えない。そういう意味でもトロントは多文化共生を成し遂げようと日々ハッテンする街でもある。
ゲイカップルや障がい者が道ばたを歩いても白い目で見られない街は、実はそうではない人にとっても暮らしやすい。車椅子の人が朝の出勤時にバスに乗ろうとしてもざわざわが聞こえないくらいの余裕があれば、ギスギスしないフレンドリーな雰囲気が周りにも広がり、社会に思いやり豊かになる。まだ手探りのトロントの多文化共生もこんな風になればいいなとバスに揺られて思った。