キャシーの日々ハッテンは、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。
キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.131 感情に流される前に深呼吸しよう
誰かが問題発言をして、それがニュースになって、ツイッターやフェイスブックでシェアされて、あっという間に大炎上して瞬く間に燃え尽きる。そんな光景を頻繁に目にするようになった。テクノロジーが発達して、常に世界と繋がって、いつでも意見を発信できる時代になったのに、随分と余裕のない社会になってしまった。
子供の頃はインターネットの存在さえ知らなかった。友達と授業の合間に流行りのゲーム情報を交換できるだけで最高に楽しかった。大学生になるとブログに自分の意見を書くのに夢中になった。顔も名前も知らない人たちと意見を交換するのはとても楽しかった。今日、写真を撮れば即座にシェアできて、何か思いつけばその場で呟ける。誰でもどこでもビデオ中継さえできてしまう。そうやってインスタントに情報発信できるのは素晴らしいことでもあるが、同時に大きな問題も抱える。人間は感情的な生き物だ。私たちは感情を通してこの世界を生きている。しかし、だからといっていつも感情に流されて行動するべきだとは限らない。湧き上がった強い感情を観察して、分析して、反省してこそ、自分や他人、そして世界のことを学ぶことができる。しかし、今の社会はそんな余裕をなかなか与えてくれない。真っ先に意見を発信することばかりに気を取られて、自分の考えや意見を振り返ったり、情報を集めて物事を違う視点から見ることを忘れてしまう。ソーシャルメディアは今、そんな感情に任せた人たちで溢れている。冷静に議論をするスペースはほとんどない。負の感情を燃料にコンテンツが炎上すれば注目を浴びて利益になるので、メディアもどんどん偏っていく。
自分もたまに感情的になってツイッターに向かってキーボードを叩くことがある。そんな時は手を一旦止めて、深呼吸するようにしている。そして、自分の感情の根っこにあるものを探りつつ、目の前にあるものを様々な視点から観察して、情報を頭の中で整理する。その過程で、書きかけていた下書きを削除することが多々ある。冷静さを取り戻すと感情に流された自分の意見の愚かさに気付くからだ。そんな自分と同じように、感情に任せて世界が突っ走るのは非常に恐ろしいことだ。