言葉狩りより、思いやり

キャシーの日々ハッテンは​、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。

キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.130 言葉狩りより、思いやり

トロントではメリークリスマスよりもハッピーホリデーを年末の挨拶として使う人が多い。多文化な都市だから、クリスマスを祝福しない人たちのことを配慮してのことだろう。今ではハッピーホリデーの方が主流になってしまった。看護婦や保母が今では看護師や保育士と呼ばれるように、社会の変化に伴って言葉も変わっていくものだ。その変化を良く思わない人もいる。ポリティカリー・コレクトな表現を押し付けられて、言いたいことを言えないのは言葉狩りだと主張する声は多い。

英語では三人称が性別によって表現が変わる。女性なら「she」、男性なら「he」、どちらか分からなければ「he or she」となる。女性と男性のどちらにも使える三人称がないのだ。トランスジェンダーや、女性と男性というジェンダーに当てはまらない人にとって、これはなかなか厄介な問題である。その解決策として、近年「they」をジェンダーニュートラルな三人称として使おうという運動が前進している。ジェンダーニュートラルな三人称を使って欲しいとリクエストされた際は相手をリスペクトして「they」を使って、初対面の場合は相手がどの三人称で呼ばれたいのかを尋ねる。そんな習慣はLGBTコミュニティで一般的になりつつある。ところが、それに抗議する声も強い。複数形の「they」を単数形の「he」や「she」の代わりに使うのは文法的にしっくりこないと怒る人は後を絶たない。トロント大学の教授であるジョーダン・ピーターソンもそんな一人だ。彼は言論の自由を理由にジェンダーニュートラルな三人称の使用を拒否した。彼の行為は大きな議論を巻き起こし、それが人権侵害であると主張する声も出てきている。そのニュースを読みながら、ここまで複雑である必要はないと感じた。今まで慣れ親しんだことをいきなり変えろと言われるのは気持ちのいいものではない。なかなか癖が抜けずに、間違ったことを言ってしまって苛立ちも募るだろう。しかし、たまには他人の立場を想像してもバチは当たらない。言葉狩りを押し付けられたと考えるよりも、自分から相手を思いやっていると視点を変えればいい。しっくりこなくても、面倒臭くても、相手の苦しみを少しでも和らげることができるなら素敵なことではないか。

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