キャシーの日々ハッテンは、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。
キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.129 トランプ政権を心配する必要はないのか
近所のカフェでコーヒーを飲んでいると、近くに座っている人たちが米大統領選について話していた。選挙結果が公開されてから数日経つのに、どこへ行ってもこの話題で持ちきりだ。まさかドナルド・トランプが大統領になってしまうなんて多くの人たちが予想してなかったのだろう。そのカフェにいた人たちも驚きの結果に戸惑っていた。しかし、彼らは「自分たちにはそれほど影響が出ないから大丈夫だろう」という結論に辿り着いて、次の話題に移った。
人種差別も、セクハラも、数々の暴言や嘘もすべて政治のための建前で、実際に行動に移すとは考え難い。そう主張する声は多い。そう考えることで選挙結果のショックを和らげているのかもしれないが、ヒジャブを被ったイスラム教徒の女性が襲撃される事件はアメリカで既に立て続けに起きている。白人至上主義のヘイト団体であるKKKはトランプの勝利を祝うパレードまで企画している。これらは極端な例に過ぎないと片付けてもいいが、トランプが大統領になったことで差別やヘイトが正当化されたと勘違いする人が増えるのは間違いない。アメリカで同性婚が認められたことでカナダから移住したゲイやレズビアンの友人はトランプ政権が不安で仕方がないと口にしている。副大統領となるマイク・ペンスは反LGBTで、同性愛を治す矯正セラピーを支持していることで有名だからだ。オバマ政権の間に前進したLGBTの権利が影響を受けるのは確実だろう。1922年、ニューヨーク・タイムズはアドルフ・ヒトラーの反ユダヤ主義が政治道具でしかないから心配することはないと報じた。その後、彼がナチズムを推し進めて、どれだけのユダヤ人、障害者、同性愛者が犠牲になったのかは語るまでもない。
大統領選後、全米各地で連日の抗議デモが起きている。多様のアイデンティティがごっちゃ混ぜになっている社会で、誰もが満足する解決策を見つけるのは簡単ではない。トランプに賛成しようとしまいと、こうやって声を上げる行為は大切なことだ。その対話の末に、差別やヘイトやハラスメントではない道を進んでいけるように祈っている。歴史は繰り返されるというが、人間も過ちから学べると信じたい。