キャシーの日々ハッテンは、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。
キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.118 自分らしく生きる人をリスペクト
変わらない人もいれば、変わる人もいる。そして、ものすごい変化を遂げる人もいる。近所のバーでビールを飲んでいると、数年ぶりに見る友達とばったり会った。数年前なら毎週末のように顔を合わせていたのに、お互いのライフスタイルがガラリと変わってすっかり疎遠になってしまった。しかし、様子が少し違う。最後に会った時はファッションセンスのある可愛い系の男の子だったが、目の前に立っている友達はエレガントで大人っぽい中性的な着こなしでまるで別人だった。
「もう彼じゃないんだ」と言って、その友達はトランスジェンダーとして女性ホルモンの投与を始めたばかりだと話してくれた。数年の間も会ってなかったから、そんなこと全然知らずに驚いた。実は、こんなことは初めてではない。遠い昔にデートに出かけた男性も、この数年で女性として新しい人生を歩んでいる。マッチョでコワモテな人だったのに、今ではゴーシャスで美しい人に大変身している。もちろん、華やかなことばかりではない。トランスジェンダーの女性の友達はデートに出かけるのも命懸けだと口を揃えて言う。残念ながら、トランスジェンダーに対する差別や暴力は根強い。だから、オープンにトランスジェンダーとして生きるのは並大抵の覚悟ではないし、それだけその人にとっては重要な決断でもある。友達として、今目の前にいるその人のことをリスペクトし、受け入れたい。昨年、オリンピック金メダリストのブルース・ジェンナーはトランスジェンダーだということを大々的に告白し、65歳という年齢でケイトリン・ジェンナーとして生まれ変わった。5歳の頃から自分が女性だと自覚していた彼女は、堂々と女性として生きられるまでに60年かかったということだ。そうやって自分らしく生きている人を見ると勇気がもらえる。
バーで会った友達は、トランスジェンダーとしての経験はまだ浅く、いろいろ戸惑いながら一歩ずつ前に進んでいる。こうして昔から知っている友達にカミングアウトするのもとても緊張するという。大事なことを打ち明けてくれて、こっちとしては単純に嬉しかった。その場で携帯の連絡先にある友達の昔の名前を新しい名前に直して、ハグしてバイバイした。