キャシーの日々ハッテンは、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。
キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.117 履歴書のホワイトニング
トロントは相変わらず就職難である。特に若者の失業率は22%にまで達していて、高学歴でも仕事のない人が溢れている。大学院卒で仕事経験が豊富である友人は、フルタイムの仕事に就けるまで数年かかった。やっとの思いで見つけたその仕事も一年のみの契約である。これが現実だ。トロントで生まれ育った人たちがここまで苦戦していると、移住してきたばかりの人や就労ビザで仕事探しをしている人はさらにひどい状況なのだろう。それだけでも絶望的だが、ただ闇雲に頑張るだけではダメだ。トロントでは履歴書をホワイトニングしないと周りと同じ土俵には立てない。
紅茶とコーヒーをよく飲む自分は歯医者に行く度にホワイトニングを勧められる。履歴書もホワイトニングする時代になったのか。もちろん、履歴書の色を白くしろという意味ではない。日本と違って、カナダの履歴書に顔写真や性別といった情報は必要ない。シンプルに名前、業務経歴、学歴、その他の資格や経験を提示するだけだ。そうすることでフェアに優秀な人材を雇うことができる。そのはずだったが、どうやら事情はもっと複雑なようだ。トロント大学の研究によれば、白人に見えるように編集した履歴書は、そうではない履歴書に比べて返事をもらえる可能性が約二倍以上も高いそうだ。英語名を使ったり、アジア人や黒人だと特定されるような仕事経験や学歴をあえて書かないことで、履歴書をホワイトニングできちゃう。別に本名や海外の学歴を使えないわけではない。それを使えば周りの白人っぽく見える履歴書よりずっと不利になるだけだ。トロントで就活をする人の間で履歴書のホワイトニングは常識らしい。さすが多文化共生のトロントである。
今まさに就活している自分も履歴書のホワイトニングを試してみた。日本の大学なんて書けば白人ではないとバレるので学歴は削除。アジア系の団体で仕事していたのはアウトなので職務経歴も削除。豊富なボランティア経験を書けばゲイだとバレるので削除。一番最後に、名前も英語名に変えてみた。完璧にホワイトニングした履歴書をじっと見つめてみた。もう自分らしいものは何も残っていなかった。さて、どの履歴書を送ろうか。