キャシーの日々ハッテンは、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。
キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.115 神様を勧めてくる人を断れないゲイ
天気もすっかり暖かくなったので、花粉症でくしゃみが止まらない彼氏を家に置いて、愛犬と寄り道だらけの長い散歩に出かけることが増えた。春が近くなると、花粉と共に道端で聖書を勧めてくる人も増えてくる。彼らは大抵かなりのやり手で、道を聞くふりして神様の話を急に始めたり、犬と戯れながら教会に誘ってきたりする。そして、簡単には引き下がらない。仕事で営業や販売に関わっているなら、ぜひ彼らから学ぶことをお勧めする。
こっちだって断るスキルでは負けていない。アプローチしてくる男性に礼儀正しく「NO」を突きつけなければ、冷酷なクラブではサバイバルできない。道端で出会う宣教に励む人たちも同じ要領で断れるはずだ。散歩の最中に止められて、10分間も興味のない話を聞くつもりはない。こっちには最終武器だってある。「私、ゲイなので。」その魔法の言葉で相手が怯んでくれると思ったが、最近はゲイフレンドリーな教会が増えたから困った。ゲイという単語が耳に入った瞬間に向こうの目はキラキラ輝き始めた。最終兵器が通用しなかった挙句、逆に相手が有利になる情報を与えてしまった。「うちの教会、ゲイ大歓迎だから大丈夫!」というセリフを苦笑いでかわしたと思えば、ウィンクと共に「イケメンも多いから、素敵な出会いもあるかもよ?」と駄目押しまでされてしまった。イケメンという言葉にあっさり釣られてしまう自分を必死に叩き起こしながら、完全敗北を認めた。正直に「ゴメンナサイ。本当に興味ないので勘弁してください。」と言うしかなかった。10分以上続いたやり取りにもうとっくに疲れ果てていた。散歩で喜んでいた犬もすっかり足元で昼寝モードに突入していた。しかし、彼らはどこでこんな話術を学んでいるのだろうか。その執念と技術には頭が下がる。
同じ日の午後、自宅で昼寝をしていたら「ピンポーン!」という音で目が覚めた。来客に大興奮な犬を抱えて玄関のドアを開けると、聖書を抱えた二人組が目の前に立っていた。彼らの笑顔はとても眩しかった。寝起きの状態であの営業トークに勝てる自信なんてなかったので、謝ってドアを閉めた。後でクシャクシャになったチラシがドアに挟まっているのを見つけた。勝った!