キャシーの日々ハッテンは、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。
キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.113 家族から交際を反対されたら
恋人を家族に紹介するのはいつだって緊張する。オンタリオ州郊外の小さな町で生まれ育ったゲイ友達から聞いた話だが、初めて彼氏を実家に連れて行ったところ、両親から「黒人じゃなくてホッとした」という反応をもらってビックリしたそうだ。息子がゲイだということは泣く泣く受け入れたが、その息子が黒人のパートナーを持つのはまた別問題なのかもしれない。ホモフォビアに加えて人種差別までのしかかって、そのゲイ友達の頭痛は悪化したという。
残念ながら多文化共生まっしぐらなトロントでさえこの話は珍しくない。黒人と交際している友人は口を揃えて恋人を家族に紹介するときに緊張したと語る。もちろん、特に問題にならないケースもあれば、家族会議で怒鳴り合いになったケースもあったらしい。大事に育てた子供に幸せになってほしいという思いが差別的な感情と混ざって、歪んだ愛情となる。だからこそ、社会でいくら受け入れられていても、身内となるとまた別の話になってしまう。ゲイ友達は大好きだけど、自分の子供がゲイだなんて考えられないという矛盾を抱える人は多い。人種に限らず、障害を持つ人や病を抱えている人と付き合っている人も同じような経験をすることがある。彼女と婚約までした友人は、相手の家族から徹底的な健康診断とDNA検査を強要されて、その結果に不満を持たれて婚約解消となった。これは極端な例かもしれないが、度合いが違うだけでこうした行動に出る家族は決して珍しくない。彼氏が文系だったからとか、彼女の唇の形が少し変わっていたからという理由で結婚を猛反対された話を聞いていると、あっさりうちの彼氏を受け入れた母が天使のように見えてくる。
家族にパートナーとして紹介するくらい大事な人なら、その人が日々心を痛める現実の中で一緒になって戦うくらいの覚悟が必要である。なぜなら、その人と付き合っている自分もそこにある差別や偏見の標的になるからだ。家族から交際を反対されるのはひとつの壁に過ぎない。一方で、反対する家族の声にも耳を傾けてみよう。とりあえず子供の決めたことに反対してみるのがその両親のクセだったりするかもしれない。相手の立場を理解するのが和解への一歩だ。