日々ハッテンするのを忘れちゃダメ

キャシーの日々ハッテンは​、トロントの日本語情報誌『Bits』(ビッツマガジン)で2011年から2017年まで連載されていたコラムです。

キャシーの日々ハッテン(コラム連載アーカイブ)
Day.112 日々ハッテンするのを忘れちゃダメ

とある社会問題系イベントに参加して、スマホをいじりながら公演が始まるのを待っていると、隣に高校生くらいの男の子が座っていることに気付いた。目を輝かせながら、彼はパンフレットを繰り返し読みながら、使い古された手帳に一生懸命何かを書き込んでいた。チラッと彼の手帳を盗み見すると、ページ全体が真っ黒になるくらい文字と図で埋め尽くされていた。その姿を見て、数年前の自分を思い出した。

当時の自分は様々な社会問題にとても興味があったが、肝心な知識や経験があまりに欠けていた。そうした分野に博識だった友人の話を聞いていても、半分も理解できずに自分の意見なんてとても主張できなかった。それが悔しくて、ノート片手に手当たり次第にイベントに参加した。難しそうな講義であっても、何も理解できない覚悟で出席した。そして、吸収できる知識は全てノートに書き込んだ。おかげで、手はいつも真っ黒だったし、肌身離さずに持っていたノートも真っ黒だった。そんな努力も無駄にはならず、わからなかった言葉やコンセプトがやがて理解できて、次第に噛み砕いて説明できるようになった。自分がたしかに学んでいるとそうやって体感できたことが何よりモチベーションとなって、もっともっと学びたくなった。

それが今では、大好きな分野の講演会に参加しているのにスマホばかりいじって肝心な話が全然耳に入って来ない。別にその講演の内容がつまらないというわけではない。隣に座っている高校生の男の子は全身全霊を傾けて、吸収できるもの全てを吸収している。変わってしまったのは自分なのだろう。いつのまにか自分が持つ知識に満足してしまって、新しい視点を無意識のうちに拒否していた。まだまだ未熟なのに学ぶことを放棄してしまった自分が急に恥ずかしくなった。どんなに知識を持っていたって、新たな知識を受け入れる姿勢を忘れなければまだまだ学べる。どんなに偉い存在になろうと、どんなに年を取ろうと、それは変わらない。その気になれば死ぬまで日々ハッテンできる。そんな当たり前なことを忘れていた。スマホをバッグに仕舞って、今日は真っ直ぐに目の前にあるものに耳を傾けてみよう。

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