三十路の自分と、二十歳の自分

キャシーのトロント不思議ハッテンは​、ゲイ総合情報誌『Badi』で2012年から2016年まで連載されていたコラムです。

キャシーのトロント不思議ハッテン(コラム連載アーカイブ)
第43回、三十路の自分と、二十歳の自分

あと一ヶ月で三十路になってしまう。駆け足で生きてきた20代が既に過去になっているだなんて信じがたい。いつか追いかけていたアイドルが『あの人は今』に登場しているのを見て、変わり果てた姿に開いた口が塞がらなくなった。あまりのショックで鏡の中の自分を確認すると、こっちも負けないくらい老けている。ため息をついて、10年前の自分を思い出した。二十歳というオトナになるべく年齢を目前にして、マジで悩んでいた。大学に入ったものの、そこまで勉強には熱心になれず、心から友達と呼べるような存在もいなかった。自分がゲイだという事実には思い切り蓋をして、考えないようにしていた。毎日適当にやり過ごせればいいと思ってた。まさにゾンビだ。二十歳になっても何も変わらないとあきらめていた。

「何とかなったじゃん」と、今ならあの頃の自分に対してこう言える。ゲイに未来なんてないと恐れていたが、今では彼氏と愛犬と一つ屋根の下で暮らしている。仕事にありつけずにホームレスまっしぐらかと思っていたが、やりがいのある仕事にも出会えた。自分が嫌いで嫌いで仕方なかったが、過去の自分も含めて自分自身を少しずつ愛せるようになった。ここまで来れたことに自分でさえ驚いている。周りに聞けば、トロントに留学したのが良かったとか、真剣な恋愛をしているからだと返って来る。それらが自分に影響を与えたのは確かだが、本当にそれがきっかけで変われたのだろうか。この10年間を振り返って、改めて自分の歩みを思い出した。

二十歳になって、このままゾンビでは嫌だとあがいた。自分のために生きてやると決心して、恐る恐る一歩前に踏み出した。人目を気にするより、目の前にあることに注目した。他の人に行き先を決められるんじゃなくて、自分で自分の舵を取った。簡単な道のりではなかったが、流されて生きるよりは遥かに楽しかった。あの一歩がなかったら、今でもゾンビのように生きていたかもしれない。下手すれば腐り果てていただろう。三十路間近の今だって、まだまだやりたいことが山ほどある。まだ世界一周もしてないし、宇宙旅行もしてないし、ぶっかけパーティにも参加したことがない。夢は無限大だ。まだまだ腐ってられない。

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