キャシーのトロント不思議ハッテンは、ゲイ総合情報誌『Badi』で2012年から2016年まで連載されていたコラムです。
キャシーのトロント不思議ハッテン(コラム連載アーカイブ)
第38回、髭男クローンたちに乗っ取られたゲイコミュニティ
今、トロントでは髭が熱い。ゲイもノンケもみんなもっさりとダンディーな髭を生やして、とてもチクチクする。あまりにも髭人口が増えすぎて、髭剃り業界は危機感を募らせているほどだ。つい最近、長く蓄えた髭はバクテリアが繁殖しやすいのでウンコより汚いという記事が大きな話題となった。もちろん、根拠のない嘘だったが、それに踊らされるほど髭ブームは凄いということだ。髭好きの自分にとっては朗報である。フェチとまではいかないが、全然タイプじゃなかった人も髭を生やした瞬間セクシーに見えてしまうほど、髭パワーは凄い。このブームが終焉を迎えるまで、文字通り精一杯巷の髭男を楽しむ予定である。しかし、この流行は良いことずくめではない。ゲイコミュニティは髭を蓄えて、同じような髪型で、似たようなファッションで着飾ったクローンばかりとなってしまった。髭ファッションは「オトナっぽくて、オトコらしい」のでよく売れるという口コミのおかげだろうが、ここまで来ると不気味だ。
「昔はみんな個性豊かだった!」60代のゲイの方がいつかこう語っていた。ゲイバーには、もっといろんな人が来ていたという。レディ・ガガもびっくりなド派手ファッションで自分を演出する人。綺麗というより恐ろしい厚化粧を自慢気に披露する人。もう露出するところがないくらいセックスアピールの凄い人。世間のフツーからはみ出してしまう人たちがやってくる場所がゲイバーだったという。それがいつしか、売れるゲイのテンプレからはみ出してしまう人にとっては居心地の悪い場所になってしまった。無視されるどころか、白い目で見られたりバカにされたりすることだってある。受け入れられたいと思うことが悪いわけじゃない。正直、流行やフツーに流された方が楽だ。髭にだって罪はない。しかし、こうした小さなことが積み重なって、こうあるべきだというルールが出来上がる。そして、それに当てはまらない人は仲間はずれになってしまう。除け者扱いされる痛みを感じてきたはずのゲイコミュニティなのに、皮肉としか言いようがない。もしタイムトラベルができるなら、ぜひ個性で溢れていたというゲイバーに訪れてみたい。そっちの方がずっと楽しそうだ。