キャシーのトロント不思議ハッテンは、ゲイ総合情報誌『Badi』で2012年から2016年まで連載されていたコラムです。
キャシーのトロント不思議ハッテン(コラム連載アーカイブ)
第24回、ゲイの引越し屋さん、ノンケの引越し屋さん
まだ肌寒いトロントの春、新居へ引っ越すことが決まったあたしはゲイの引越し屋さんを雇うかどうか真剣に迷っていた。オープンに暮らすゲイが多い北米の都心部では、オープンにゲイとして営業しているビジネスがたくさんある。熊系のカウンセラーから、イモ系の薬剤師や、ガチムチゲイ夫婦がまったり経営する家具屋さんなど、とてもバラエティ豊か。こうしたゲイビジネスを利用する人たちの中には、ちょっと思わせぶりなやりとりを楽しみたい下心満載の人もいれば、同じコミュニティにいる人たちにお金を落としたい人もいる。もちろん、ゲイのニーズに特化しているサービスも多いので、痒いところに手が届いて気持ちいい。近所に新しくアンティークショップができて、散歩がてらに入ってみるとピンクの首輪を付けた飼い犬とお揃いのピンクのシャツをおしゃれにまとったおじさんと知り合って、世間話に花が咲いた。そうしたささやかな繋がりもゲイビジネスを利用する魅力である。ただ、わざわざゲイを避けて通ったこともしばしば。トロントで初めて歯医者を訪れたとき、自分の口の中を同じゲイに見られるのが恥ずかしくて、友人に「ノンケの歯医者さんで良い人知らない?」と聞き回ったくらいだ。引越し屋さんで今回迷っているのも、とてもプライベートな領域だからなのかもしれない。友人の話では、引越しの最中にソファーの下からど変態なエロ本が現れて、引越し屋さんの前で赤面したことがあるという。うちの場合、下手すればゴムチンコや手錠が飛び出る可能性があるので、ますます恥ずかしい。そんな状況下で、ゲイの引越し屋さんとノンケの引越し屋さん、どっちが笑って流してくれるのだろうか。散々悩んだ末に、ゲイの引越し屋さんを使うことにしたが、引っ越し当日に現れたお兄さんたちはテキパキと仕事をこなし、何事もなく引っ越しは終わった。彼らがゲイかどうかさえわからなかったが、力仕事をするイケメンという絵は十分に目の保養となった。結局はそこなのか。