キャシーのトロント不思議ハッテンは、ゲイ総合情報誌『Badi』で2012年から2016年まで連載されていたコラムです。
キャシーのトロント不思議ハッテン(コラム連載アーカイブ)
第13回、トロントで手にした選択肢/手放した選択肢
5年前のこと、東京のとあるハッテン場で出会った同い年の男の子とやることを済ませ、寝そべって薄暗い天井を見つめながら将来を語ったことを覚えている。同じく22歳だった私たちは二人とも大学を卒業したばかりで、お互いに人生の岐路に立っていた。数週間後にはトロントに発って、ゲイとしての未知の可能性に目を輝かせていた自分の横で、彼はこのハッテン場を出たらゲイを止めて、田舎に戻って就職して女性と結婚すると話していた。まるで違う道を二人は進もうとしていた。
トロントに来てから、確かに多くの選択肢を手にした。オープンなゲイとして性教育に関わる仕事は間違いなくこの街に来てなければ巡り会うことのなかった機会だし、今のパートナーとこうして安定した暮らしができるのもパートナー法や同性婚があるカナダの恩恵が大きい。一方、同じくトロントに暮らす友人の中にはゲイとしての選択肢にそこまで価値を見出せない人もいる。日本でクローゼットに戻ってより安定した仕事に就くか、キャリアを犠牲にしてトロントでゲイとしてオープンな暮らしを楽しむか。そんなジレンマを前にしてはどちらかを選ぶのは容易くない。英語や人種の壁を乗り越えて、失業率の高いトロントで安定したキャリアを築ける人は一握りしかいない。ゲイにとって選択肢が多いからといって、それが自分の目指す幸せに直結するわけではない。
駆け足で過ごしたこの5年間、トロントという街をもう一つのホームタウンと呼べるまでになった。この街に来たことで手に入れた選択肢も多いが、同時に手放した選択肢も少なくない。たまに立ち止まって、もしあの時日本で就職していたらどうなっていたかとも考える。田舎に戻って結婚すると言ったあの男の子は今頃どうしているんだろう。彼は幸せにやっているんだろうか。