今年のアカデミー賞授賞式見た?
うちのテレビはケーブルとか契約してないので。
授賞式の次の日の朝、衝撃のニュースを目にしたのよ。
『セス・マクファーレン、アカデミー賞授賞式のオープニングでおっぱいソングを歌う!』
セス・マクファーレン(Seth Macfarlane)、日本では馴染みが無いかもしれないけど。
『ファミリー・ガイ』や映画『テッド』の制作者といえばピンと来るかしら?
声優として多彩な声を操り、ジャズも歌えて、頭の回転が速く、本当に才能豊かな人なのよ。
なんだけど…この人ジョークにかなり難アリなのよね。
『ファミリー・ガイ』のようなアニメでは過激なジョークも見過ごせるけど。
映画『テッド』のジョークは行き過ぎた部分も多く、笑えないものも多かったわ。
(あたしが『テッド』のディレクターズカットの方を見たせいかもしれない)
差別無くすべての人、文化、社会問題を笑いにするのが彼のスタンスだけど。
正直、たまにただの男尊女卑の人種差別家にしか聞こえなくもないのよ。
視聴率低迷に悩むアカデミー賞は今年、そんな彼を司会者として抜擢。
「いったいどんな過激なことを言うの?」
と、メディアはこぞって彼を祭り上げて。
アカデミー賞の狙い通り、授賞式は大盛り上がりなままスタートを切った。
そして、セスは予想を裏切らない過激な司会を全うした。
まずは、問題のおっぱいソング。
映画の中でおっぱいポロリしたハリウッド女優たちを名指しで歌った彼。
プロの仕事として、芸術作品のために脱いだ彼女たちだが。
彼のこの歌で、世の男性のオカズに格下げされたわけだ。
ほら、シャーリーズなんか凄い怖い顔してるじゃないの!
(ジェニファーが喜んでるのはまだ映画でおっぱい出してないからよ)
カットで入る女優たちの反応は実は事前に撮影されたもの。
ジェニファー・ローレンスも、シャーリーズ・セロンも、ナオミ・ワッツも、きっとセスのジョークに賛同して協力したと思うのね。
こんな感じで、芸がやたら細かいのもセスのスタイルよ。
もちろん、このおっぱいソングはただの始まりに過ぎず。
授賞式の最中、彼は終始聞いてる方がハラハラするようなジョークを連発した。
ここまでやらかして、メディアが黙ってるわけがない。
「セス・マクファーレンのアカデミー賞授賞式は敵意たっぷりで、醜くて、男尊女卑な一夜だった」と雑誌ニューヨーカーの記事は怒りが籠っていた。
そんな批判の多さを他所に、今年のアカデミー賞授賞式は2010年ぶりの高視聴率となった。
あたしも周りの友達や同僚にアカデミー賞についての反応を聞いてみたのよ。
「セスを雇ったアカデミー賞はこれを黙認したんでしょ?彼は自分のスタイルを貫いただけ。全然良い仕事したと思うよ。」
「本当にセスありえない。あんな大舞台で女性をバカにして、さらに人種差別的なジョークばかり言って、弱者を攻撃して笑い取るなんて卑怯すぎる。」
そしたら、見事に意見は真っ二つに割れてて興味深かったわ。
これはあくまでキャシーの価値観なんだけど。
弱者を攻撃して笑いを取るジョークは芸がない人のすること。
女性や有色人種をバカにして笑えば、そのジョークに潜む攻撃性に気付かない人は笑うよ。
もしくは自分が言いたくても言えないから、代弁してくれたことで笑うよ。
誰も言えないことをバンバン言うから、放っておいても話題になるよ。
ただ、そんなジョークがいかに弱者を傷つけ、社会を後退させるかも考えるべきね。
こんな大舞台で、自分のジョークにどれだけ影響力があるのか考慮しないのかしら。
そして、こういうこと言うと決まってこう返す人がいる。
「冗談なんだからそんなにマジになんなよ!」
あなたにとっては一瞬で済んでも、多くの人にとっては毎日受ける差別なのよ。
本当にスキルのあるコメディアンは弱者を笑いのネタにする必要は無い。
その例として、今年のゴールデングローブ授賞式のオープニングを見てほしい。
過去数年、ゴールデングローブは過激発言で有名なコメディアンを司会に抜擢した。
彼のジョークも今年のアカデミー賞と同様に批判を浴びつつ、大きな話題となった。
そして今年、ゴールデングローブは司会を一新し、笑いのスタイルを転換した。
司会者であるティナ・フェイとエイミー・ポーラーは弱者を笑いのネタに使うことなく、ポジティブな笑いを届けている。
「あたしたち、今日は過激なジョークは言いませんから。」
ティナ・フェイの言葉はアカデミー賞に対する当てつけのようにも聞こえる。
実際、彼女たちのジョークはスマートで洗練されていた。
たかがジョーク、されどジョーク。
軽く見てはいけないわ。