目の前の痛みが怖くて別れられない

セックス・アンド・ザ・キャシーは​、LGBTのためのコミュニティサイト『2CHOPO』(にちょぽ)に2014年から2017年まで連載されていたコラムです。

セックス・アンド・ザ・キャシー(コラム連載アーカイブ)
第83回、目の前の痛みが怖くて別れられない

別れたいと言い出す度に彼氏に泣きつかれて、結局別れられずにだらだら付き合っている友達は不満そうに愚痴をこぼしている。その愚痴を30分以上も黙って聞いている自分は、未だに友達がどうして別れを切り出せないのか理解できずにいた。話を聞く限り、友達はその彼氏との恋愛関係に未来はないと思っている。もう相手に恋愛感情も抱いていない。お互いに譲れない部分ばかりが衝突して、一緒にいれば喧嘩ばかりしてしまう。何より、もうとっくに別れたいという結論に達している。それならば、なぜ私はここで彼の愚痴を聞いているのだろうか。いい加減に話をまとめたくなって、口が開いた。

「結局、なんで別れられないの?」

二人の間に気まずい静寂が訪れた。自分のとんちんかんな質問にビックリして、友達は眉間にシワを寄せた。さっきから説明していることを全然理解されなかったのが癇に障ったのだろう。同じ言葉を使っていても視点が違いすぎるのか、さっきからミスコミュニケーションをしているみたいだ。別れたいと伝える度に彼氏が泣いて、結局別れない。それでも別れたいから同じことの繰り返し。この話に筋が通っていないと感じてしまうのは、自分に同じような経験がないからなのだろうか。わからないのなら仕方がない。友達の立場を理解するためにもっと耳を傾けるしかない。

「彼氏があまりに可哀想だから別れるのが辛い。」

45分経った頃に、友達の口から新しい情報が飛び出した。段々と物語の全貌が見えてきた。友達の彼氏はまだ恋愛感情を抱いている上に、二人の未来を夢見ることも諦めていないようだ。だから、終わりを迎えないように必死に抵抗している。そんな姿に胸を痛めて、友達は別れを告げるという残酷な行為に直面できずに先延ばしばかりしている。絆創膏を剥がしたいのに、ムダ毛を引っ張られるのが嫌で、なかなか行動に移せない。そんな例えでこの状況を説明すれば友達から絶交を言い渡されるだろう。目の前の痛みを避けたいばかりに、いつまでも苦しみを長引かせて囚われたまま前に進めない。そんな二人の関係があまりにも気の毒だ。

同情を理由に恋愛関係を維持するのは相手にフェアではない。それは相手の気持ちを弄ぶ行為である。もう終わらせようと心に決めたのに、まだ未来があるかもしれないと相手にほのめかすのは嘘以外の何物でもない。どんな言い訳で取り繕ったところで、別れを切り出したい方が有利な立場にいる。悪者になりたくないがためにフラれるのを待っているのなら、それはあまりに自分勝手な考え方である。だからこそ、曖昧な言動でお互いを混乱に招くよりも、勇気を出して絆創膏を剥がすべきだ。

感情的になっている友達の横で外野から冷静に分析する自分は、歯に衣着せぬ言葉ばかり放っている。親しい仲になるほど容赦がない。もちろん、実際に同じ状況に身を置けば、そんな冷静な決断を下す自信はない。恋愛というドロドロの中で足掻いているのに夢中で、常に正しいと思えることを選ぶのなんて不可能に近い。本当のところは彼らにしかわからないし、どう前に進みたいかを決めるのも彼らの勝手である。だから、もう話題を変えよう。60分の無料恋愛カウンセリングを約束したつもりはない。もちろん、それでも友達として全てがうまく行くように遠くから応援している。どちらに転んだとしても、胸くらいは貸してあげよう。

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