セックス・アンド・ザ・キャシーは、LGBTのためのコミュニティサイト『2CHOPO』(にちょぽ)に2014年から2017年まで連載されていたコラムです。

セックス・アンド・ザ・キャシー(コラム連載アーカイブ)
第56回、恋愛の中の不平等に敏感になる大切さ
「ずっと同じくらいの収入だったのに、彼女の方が出世して二倍以上も稼ぐようになって二人の関係がぎくしゃくした。」
クレープが美味しい喫茶店でレズビアンの友達と恋愛話をしていると、彼女は最近終わりを迎えた恋を赤裸々に語ってくれた。収入のギャップなんて他人事ではなかった。まったり仕事探しをしている今の自分にとって、彼氏との収入の差は二倍どころではない。溶けそうになっているアイスクリームをフォークで半分に割って、クレープで巻いて食べる友達を見ながら、自分のお皿にはアイスクリームがないことに気付いた。
収入以外にも、恋愛の中に不平等を生み出すものはたくさんある。15歳も年齢差がある知り合いのゲイカップルは、常に周りに視線に悩まされるという。25歳で、白人で、モテるタイプなら、出掛けるだけでちやほやされる。一方で、40歳で、アジア人で、どちらかといえば地味な彼氏は、ちやほやされるどころか透明人間にされてしまう。25歳のイケメンの隣に立っていれば尚更だ。一緒にパーティに行けば、周りからカップルであることを驚かれることも多い。そんな環境の中で自尊心を保つのは簡単ではない。お互いに愛し合っているとわかっていても、そこにある不平等が理由で喧嘩することも珍しくないと彼は打ち明けてくれた。
「君がモテないのは僕のせいじゃない。」
喧嘩の最中、この言葉が飛び出して火に油を注ぐことになったらしい。確かに、若くて見た目が良くて白人である彼氏には何の責任もないのかもしれない。彼が何かをしたところで、隣にいる老けていて地味なアジア人が急にちやほやされることはない。人間は生れたときから平等ではない。それでもデコボコした複雑な社会の中で様々な場所に立って、必死に生きている。そんな不平等な社会の中で恋愛をすれば、恋人との間に格差も生まれる。それは二人だけの力ではどうにもならない。社会が変わらない限り、二人の立場が同じにことはない。
「私たちの愛のために革命を起こそう!」
こんな情熱的なカップルなもっといればいいが、他にもできることはある。自分より不利な立場に立っている恋人を思いやることだ。「私のせいじゃない」や「被害者妄想だ」なんて辛い言葉は、そこに存在する格差を否定して、相手の立場を想像していない。そんな言葉にリスペクトや思いやりはない。自分が経験しないからといって、相手も経験しないとは限らない。こんなに近い距離にいる恋人に理解されないのはとても悲しい。だから、少し歩み寄って、相手の立場を理解して、その立場から見える景色を想像するのは大切なことだ。そこからどうやって前に進めばいいのかを一緒になって考えれば、また別の道が見つかるかもしれない。
そんな年の差ゲイカップルの間には別の不平等も存在する。裕福な家庭で育って、有名大学を卒業した40歳のアジア人は大手銀行に勤めて順調にキャリアアップしてきた。ところが、郊外の貧しい家で育った25歳の白人は数年遅れてコミュニティカレッジを卒業し、安月給のパートタイムで生活費を稼ぐのがやっとだ。そんな格差だらけの彼らは、ゆっくりとお互いを思いやる術を学びながら、支え合って生きていきたいと話してくれた。簡単なことではないかもしれないが、これからも素敵な愛を育んで欲しい。
今まで彼氏と比較的近い立場に立っている自分だって、いつその関係が揺らぐかはわからない。どちらかが病に倒れてしまうかもしれないし、このまま自分だけ収入のない状況が長引くかもしれない。そんなときに、私たちはお互いを思いやることができるのだろうか。目の前の格差から目を背けずに、それと向き合いながらお互いを支え合うことができるのだろうか。そんな答えのない疑問を考えていたら、目の前に座っていた友達が半分残ったアイスクリームを分けてくれた。
「このアイスクリーム、クレープと一緒に食べるとめっちゃ美味しいよ!」