キャシーのトロント不思議ハッテンは、ゲイ総合情報誌『Badi』で2012年から2016年まで連載されていたコラムです。
キャシーのトロント不思議ハッテン(コラム連載アーカイブ)
第9回、トロントのゲイたちはスキンシップが激しい
いつのことだったか、散歩中にばったり会ったゲイ友達にそのまま口にぶっちゅー!っとキスをされたことがある。何事もなかったかのように振る舞う彼を見て、トロントに来て間もなかった自分はいったい何が起きたのか理解もできず、聞く勇気さえなかった。
日本にいた頃は、チンコはしゃぶるのにキスはNGな人もよくいたから、唇と唇のキスは特別なものだと考えていた。そんな先入観のせいか、友達にキスされる理由が見つからずに妄想ばかりが膨らんだ。「まさかキャシーのことが…?」なんて結論に達しそうになったとき、「キスはただの挨拶だよ」と他の友達が教えてくれて、現実に引き戻された。トロントで知り合った友達との挨拶は基本的にハグで、人によっては両頬にエアーキスをしたりする。スキンシップの好き人はそのまま頬に口をつけてキスもしてくる。日本ではそんな文化に全然触れて来なかったから、慣れるまで少し時間がかかった。そして、今でもまったく慣れないのが挨拶で唇にキスされること。もちろん、挨拶のキスで舌は入って来ない。それでも、あの親密さには思わず戸惑ってしまう。露骨に拒否するのも失礼だから、友達が口にキスをしてきそうなときはとっさの反射神経で唇を少しズラすようにしている。タイプの人がキスしてきたらむしろ身を捧げるんだけど、これはもう下心以外の何者でもない。もちろん、これはゲイコミュニティの中の話。“男らしさ”に無駄に拘る北米のノンケコミュニティでは、男同士のキスは珍しい。ビジネスシーンでもこうしたスキンシップを避けるので、人によって挨拶を切り替える必要がある。
後日談だが、実は道ばたでキスをしてきた友達は本当にキャシーに気があったらしい。しかし、大きなカルチャーショックとなったあのキスのことは覚えていないようだ。