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理想の仕事を求めて

2 1月

「もし理想の仕事を選べたら、何がしたい?」

数年前、この質問を聞かれて自信満々に当時していた仕事がそうだと答えることができた。正直な気持ちだった。2016年に入って、自分の答えは変わっていた。次の一歩に進むべきだと決心して、仕事をやめて転職活動を始めた

2009年からトロントでやってきた仕事で積んだ経験のおかげで、様々な道を進む選択肢があった。公衆衛生の経験を活かして、コミュニティや政府でヘルスプロモーションの仕事を続けることもできる。NPOのプログラムを運営する経験を活かして、他のNPOで管理職を探すこともできる。マーケティングとコミュニケーションの経験やプロジェクトをまとめる経験を活かして、全く違う分野でキャリアをスタートさせることもできる。そんな分かれ道を前にして、どうすればいいのかわからなかった。どこに向かえば本気で愛せる仕事と巡り会えるのかなんて見当もつかなかった。

もう一つ選べる道もあったが、自分は意図的にそれを避けていた。反差別教育やダイバーシティ戦略の仕事である。自分の過去の仕事では、人種差別、ホモフォビア、トランスフォビア、障がい者差別、HIVやメンタルヘルスに対する偏見などの問題を毎日のように扱っていた。コンサルタントとして、他の団体や職場でダイバーシティの促進を手伝ったり、教育プログラムを提供したりしていた。だからこそ、この仕事の難しさもよく理解していた。そんな困難な問題を自分が扱えるのか自信もなかった。足を踏み出す前から白旗を上げていた。

2016年は、方向性の違う可能性に直面して迷子になった一年だった。何度も方向転換をしたが、その度に壁にぶつかった。自分のスキルにぴったりなNPOの仕事があっても最終面接で何度も落ちた。大手企業やスタートアップに転職を試みるも興味が持てる仕事がほとんどなかった。自分の仕事が会社の利益向上に繋がったところで、それがモチベーションにならないのはわかっていた。年収が大幅に増えたところで、それイコール自分の幸せではないことも知っていた。萎んでいく可能性を目にしてますます迷った。

ある日、友達から仕事の依頼があった。次の日のイベントのために雇ったフォトグラファーにドタキャンされて友達は困っていた。他の人がいないので、フォトグラファーをやってくれないかと頼まれた。趣味で少し写真を撮る程度の自分だったが、そんなきっかけでプロフェッショナルなイベントで給料をもらって写真を撮ることになった。失敗しては大変だとプレッシャーを感じつつ、一生懸命にシャッターボタンを押した。たまたま、そのイベントは大手企業でダイバーシティ戦略を率いるリーダーによるパネルディスカッションであった。

「今の時代、ゲイなら何も差別は受けないだろう。」

某大手銀行のダイバーシティ戦略を担当する人の言葉である。その銀行に勤めればホモフォビアに出会うことがないという意味なのだろうか。有色人種のゲイでも差別は受けないのか。トランスジェンダーのゲイでも差別を受けないのか。総合失調症と共に生きているゲイでも差別を受けないのか。カメラを抱えながら、そんなことばかり考えていた。大手銀行で桁違いの年収をもらうストレートの白人男性である彼の視点からは、きっとそう見えるのかもしれない。彼が語るダイバーシティがお金儲けのための表面的なものであって、実際に差別問題に取り組むためのものではないと気付くのに時間はかからなかった。その彼の言葉がきっかけになったのかもしれない。勢いに任せて、締め切り間近に反差別教育を導入する仕事の求人募集に履歴書とカバーレターを提出した。

数日後、連絡をもらって面接に招かれた。予想外のことに少しビックリした。面接では、用意したダイバーシティ戦略と反差別教育のプランをプレゼンテーションで説明しつつ、今までの仕事でLGBT、HIV/エイズ、メンタルヘルス、貧困問題と様々な社会問題に取り組んできた経験を話した。そして、自分がゲイで、有色人種で、移民であるということも全て曝け出した。自分の最もパーソナルな部分とプロフェッショナルな部分の接点となるこの仕事がいかに自分にとって大切か力説した。その熱意が伝わったのか、それともたまたまラッキーだったのか、まさかの仕事のオファーをもらった。

明日は仕事初日である。これが自分にとって理想の仕事なのかはわからないが、とてもワクワクしている。自分から遠ざけていた仕事とこうしてまた巡り会うのは不思議な気分である。説明のできない引力が働いているのだろうと周りは言うが、きっと偶然が重なっただけだろう。隣国のアメリカでトランプ政権が暴れる側で、カナダも多様性に対するバックラッシュが起きている。そんなタイミングで反差別に取り組むのも興味深い。いずれにしても、これで前に進む道は開いた。後は一生懸命に前進するのみである。

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そんなわけで、2017年もよろしくお願いします!