おこげ男子。
なんて美味しそうな響き。
“おこげ”といっても、もちろん食べ物のおこげではない。
ゲイ男性といつも一緒にいるノンケ女性の俗称の“おこげ”よ。
つまり、オカマにこびり付いたおこげ、本当に失礼な表現よね。
英語だとfruit fly(果物=ゲイ、蠅=女性)だったり、fag hagとも呼ばれる。
まともな呼び名がないので、キャシーもとりあえず“おこげ”と呼ぶわ。
もう気付いたと思うけど、本来“おこげ”はノンケ女性を説明する言葉。
ゲイクラブで踊ったり、ゲイ友達とショッピングやお茶会したり。
ノンケ女性とゲイ男性の友情の歴史は長かったりする。
ゲイと女性の友情を描いた『Will & Grace』も記憶に新しいわよね。
それが最近、トロントのおこげ市場に変化が起きている。
ゲイクラブに現れる見たことの無いイケメン。
一緒に散々ダンスして、デートにでも誘おうとすれば。
「あ、ごめん。俺ノンケだから。」
とあっさり爽やか笑顔で断られる。
そんな光景が最近どんどん増えているらしい。
数年前、キャシーがまだクラブでバリバリ踊ってた頃の話。
上半身裸で踊るマッチョの男子集団をゲイクラブで見つけて。
「何アレ?」
と彼らを指差して友達に聞いたら。
「アレはノンケよ。ゲイ友達と一緒にゲイクラブに来てるだけだから、セックスやデートに誘っても無駄よ。」
と教えてもらって、カルチャーショックを受けたわ。
あんたら、ゲイクラブでそんな肉体美見せつけて何のつもり?
美味しそうな肉体をよだれ垂らして見てるだけで食べられないなんて。
これってちょっとした拷問じゃない!
思春期の苦い思い出があるから、そんなノンケ男性にエゴに栄養は注ぎたくない。
でもタイプの人が思わせぶりな態度で接してきたらゲイ、ノンケ関係なくドキドキしちゃう。
そんなジレンマを抱えたキャシーは最近知り合いのノンケ男子と話す機会があった。
「何が楽しくてゲイクラブ来てるの?」
と興味本位に聞いてみたら。
「ゲイクラブに行くとさ、もうみんな俺のことを見て来るわけよ。こんなに注目を浴びることなんてないから、めっちゃ気持ちがいいんだよね。酔ってれば多少触られるのも気にならないし、みんなで楽しく踊れれば満足。」
と真っすぐな瞳でキャシーを見て笑顔で答える彼。
悔しいほどイケメンな彼から目を反らして反応に困るあたし。
心の中でメラメラ燃え上がるのはいったい怒りなのか恋心なのか。
マジでなんなの?
こんな風にゲイと遊ぶノンケ男子が増えた背景には。
やっぱりトロントの社会の変化が大きく影響しているんだと思う。
同性婚もあって、ゲイも至る所にいて、同性愛は“フツー”なものとなった。
ホモフォビアも減って、ノンケとゲイの間の壁も薄くなってきた。
特にリベラルなノンケ男子なんかは、ゲイカルチャーを気に入ってしまって。
ゲイクラブでゲイたちと踊り狂って、おこげ女子をナンパする。
キャシーはそんな彼らをおこげ男子と呼ぶことにしよう。
ある意味、ゲイにとってはカオスな時代となってきたとも言えるわね。
ゲイクラブで「ゲイですか?」と確認するのって滑稽だし。
最大の謎はおこげ男子のイケメン率が高すぎるということ。
手に入らないから可愛く見えるの?
それともただの偶然?
もうキャシーわからないわ。