キャシー、最近髪をけっこう伸ばしている。
サイドを剃って、ブロンドに染まった前髪を垂らすと。
ちょっとフェミニンで、クィアな感じで、けっこう気に入っている。
何より、朝にドライヤーで乾かせば、スタイリングも特にしなくて平気なので。
身だしなみより美味しい朝ご飯を食べたいあたしにはピッタリだったりする。
実は、とあるカフェで働くイケメンのお兄さんの髪型を参考にしたんだけど。
久々にそのカフェに戻ったら、そのお兄さんはターザンみたいな髪型になってたわ。
キャシー、そこまでは野性的にはなれないけど。
日本でサラリーマンしてたら、こんな髪型にはできないだろうし。
いつまで髪の毛が残るかもわからないので、今のうちに楽しみたいじゃない。
ただ、残念ながらうちの彼からは大不評なのよね。
彼氏の好みに合わせる友達もけっこう多いんだけど。
あたしはできるだけ自分のやりたいことを優先したいのよね。
だって、いちいち他人の趣味に合わせてたら疲れちゃうもん。
彼といえば、昔から短髪の方が大好きで。
去年、あたしが一度短髪に戻して大喜びしてたのを覚えている。
しかし、今年に入ってからは髪の毛が伸び続けているあたし。
台湾旅行から帰ってきて、二週間ぶりにキャシーを見た彼は。
「なんか髪の毛めっちゃ伸びたね。」
と、残念そうにしていた。
あたしがヘアサロンに行く度に、彼はこう言う。
「今日は短髪にするんでしょ?」
「いや。しないから。」
「うん。知ってた。希望を捨てたくなかっただけ。」
そんなやり取りが既に口癖のようになっていた。
あたしのヘアスタイリストはトランスジェンダーの女性なんだけど。
キャシーの彼が全然あたしの髪型を気に入らないことを相談すると。
「あのねー。そんなの気にしなくていいのよ。」
「髪型くらいで離れる彼氏なら、それだけの縁ってことよ。」
さすがに修羅場をたくさん生き残った彼女の言葉には重みがある。
「あたしのパパ(夫のこと)だって、あたしが毎月買う高級ブランドバッグが気に入らないみたいだけど、何も言わせないわ。」
「お互いの好みも尊敬できないカップルじゃ、長続きしないわ。」
そういうものなのかしら、と頷くしかないキャシー。
少し髪のボリュームだけ落として、ヘアサロンから家に戻って。
「どう?」
と前髪を整えながら、彼に聞くと。
「うん。似合ってない。」
と、ストレートに言われる。
「そんなこと言っても、切らないからね。」
「知ってる。でも言うのはタダでしょ。」
こんなやり取りができるあたしたちは、案外お互いを尊敬しているのかも。
気分屋のあたしは、きっと近いうちにまた短髪にするかもしれないけど。