ある日、知り合いからトロントに来たばかりの男の子を紹介された。
その男の子、トロントに来る前までいっぱいゲイアクティビズムをやってたようで。
「トロントでいっぱいゲイアクティビズムについて学ぶんだ!」
と目をキラキラさせて、キャシーにいろいろ聞いてきたのね。
こんな将来有望なアクティビストの夢を潰したくはないんだけど。
トロントのゲイアクティビズムってもう歴史の中のものじゃない?
あたしも同じ想いを抱いて、トロントに来たんだけど。
それを学ぼうにも、ゲイアクティビズム自体が全然なかったわけ。
「ねぇ、ゲイアクティビズムに参加したいんだけど、どこに行けばいいの?まったく情報がないんだけど。」
と、友達に聞いたら。
「え?同性婚も成立したのに、これ以上何と戦うの?」
と、真顔で返されてビックリしたのを今でも覚えてる。
「同性婚以外にもたっくさん問題あるでしょ?」
なんて、返す勇気もなかったわ。
ここ数年だけを見ても、トロントのゲイコミュニティはのほほんとしてるもの。
プライドパレードもデモ行進からお祭り騒ぎになったし。
人権法にも同性愛者とトランスジェンダーは守られているし。
ここまで来ると、これ以上戦うモチベーションもなくなるのかしら。
かつてはトロントのゲイアクティビズムを担っていたリーダーたちも散らばって。
今のトロントのコミュニティ内で多様な素晴らしい仕事をしている。
もちろん、だからって戦う力がなくなったわけではない。
カリフォルニア州の同性婚成立がひっくり返されたときは、トロントでも大きなデモ運動がアメリカ大使館の前で起きたし。
トロントの市長がプライドへの支援金や、HIV/AIDSやLGBT向けのプログラムをカットすると公言した時は、みんなでシティホールを乗っ取ったし。
オンタリオ州のカトリック高校が学生の立ち上げたゲイサークルの運営を中止させようとした時は、多くの学生が立ち上がった。
のほほんとしているように見えて、やる時はやるのよね。
それだけみんな、自分が有する権利をちゃんと理解してるってことね。
むしろ、戦うよりも、コミュニティ内のサポートの方が必要なのかもしれない。
LGBTの若者は未だにひどいいじめにあうし、自殺率も高い。
トランスジェンダー女性の就職率は今でもひどい状況で。
セックスワーク以外のオプションがなかったりする。
そんな中で、トロントのアクティビズムは必然的に違う方向性にシフトしてきたんだと思う。
そういえば、あたしもいつしか自分をアクティビストとは呼ばなくなったな。
日本に居た頃は反骨精神たっぷりに目の前にある権力と戦ってたのに。
いつの間にか、LGBTの若者のサポート役に回ってしまったわ。
え?今はなんて自分を呼ぶかって?