今年もいつの間にか夏が終わったわね。
日本はまだまだ暑いんだろうけど、トロントに残暑なんてないの。
既に秋ものジャケットを揃えたあたしはそれも楽しみなんだけどね。
そういえば、キャシーはこの夏でカミングアウトして5年が経つわ。
あっという間に過ぎた濃厚な5年間だったわけだけど。
今でも5年前に感じた想いはよく覚えていて、今でもそれに励まされる。
この前、ミュージカルの『Wicked』を見に行ったときに。
東の“悪い”魔女であるエルファバが歌う『The Wizard and I』って曲があるんだけど。
ずっと周りから忌み嫌われ続けてきた彼女は初めて自分の才能を評価されて、こう歌うの。
キャシーの意訳なので、多少原文とは言葉使いが違うので注意よ。Did that really just happen?
(あたし、夢でも見てるの?)
Have I actually understood?
(何かの聞き間違いじゃないよね?)
This weird quirk I’ve tried to suppress or hide is a talent that could help me meet the Wizard.
(ずっと隠してきたこの変な癖が、本当は魔法使いに会うという夢を叶えてくれる才能だったなんて、信じられないわ。)
あたしはそう嬉しそうに歌う彼女を見て、思ったの。
「あたしがカミングアウトしたときに感じたのと同じだ。」
小さい頃からずっと自分はゲイだから、悲惨な人生しか過ごせないと思ってた自分。
だからそれを隠したまま“フツー”に何事もないように暮らしていれば。
その悲惨な結末を先延ばしにできるってきっと信じてた。
もちろん、自分の感情やアイデンティティを殺したまま生きるのは簡単じゃない。
次第に何事にもやる気がなくなって、何をしても楽しくなくなった。
しかし、カミングアウトをしてすべてが変わった気がした。
目の前に一気に可能性が広がって、何もかもが楽しくなった。
ずっとゲイだということが自分の足かせだと思ったのに。
まさかそれが自分をここまで遠く運ぶなんて夢にも思ってなかった。
ゲイだったから、こんなにいっぱい友達にも出会えたし。
ゲイだったから、本気で好きだと言える仕事にも出会えたし。
ゲイだったから、今こうしてバカップルで同棲出来たし。
ゲイだったからこそ、今幸せだと胸を張って言える。
カミングアウトしてなかったら、それこそ悲惨な人生を送っていたのかもしれない。
ここまで書いておいて、真逆なことを言っちゃうんだけど。
別にゲイということが、凄い魔法を秘めているわけでもない。
あたしはただ男に生まれて、男が好きなだけ。
これはただのあたしのセクシュアリティで、それ以上でもそれ以下でもない。
本当に大事だったのは、やっぱり自分に素直になったこと。
自分にとって大切なことをがむしゃらに追いかけたからだと思うの。
ほら、『Wicked』でもエルファバは自分を信じて大空に飛んで行くじゃない。
もちろん、5年経った今でもあの頃の想いはちゃんと抱いている。
悔いが残らないように、やりたいことにはどんどん手を伸ばしてるし。
成功する日もあれば、失敗する日もあって、ゴロゴロする日もある。
「大学生時代って人生で一番楽しいときだから大事にしなさい。」
そんなことを母がよく口にしてたけど。
あたし、これには同意したことないのよね。
何歳になったって、人生は謳歌できるものだって信じたいじゃない。
大人になることが、自分を押し殺すことなら、そんな道は歩まないわ。
仕事先でも、家族や友達の前でも、いつでも笑顔でいたいもの。
まだまだこの仕事でやりたいこともいっぱいあるし。
あれこれ学びたいこともいっぱいあるし。
試したいセックスだっていっぱいあるし。
実現したい夢だって山ほど積もってるわ。
これからもカミングアウトして10周年、20周年と年を重ねたいわね。